「毎日10時間も寝ているのに、なぜか疲れが取れない」「休日に10時間以上寝てしまうのは、寝すぎなのだろうか」。自分の睡眠時間について、こんな疑問や不安を感じている方は少なくありません。
長時間眠ることが、単なる体質なのか、それとも何らかの不調のサインなのか。健康への影響はないのか。その答えは一つではありません。
この記事では、10時間睡眠の背景に考えられることを、ロングスリーパーという体質、生活習慣、隠れた病気の可能性まで順に解説します。
あわせて、長時間睡眠と健康リスクの関係の読み解き方や、10時間寝ても疲れが取れないときの見極め方も紹介します。
- 厚生労働省の睡眠ガイドでは、成人の適正な睡眠時間はおおよそ6〜8時間とされ、少なくとも6時間以上の確保が推奨されています。
- 10時間を超える長い睡眠を必要とする「ロングスリーパー」は病気ではなく、一定数いる体質です。
- 長時間睡眠と死亡リスクの関連は、睡眠そのものが原因とは限らず、隠れた健康問題のサインであることもあります。
- 10時間寝ても疲れが取れない場合は、睡眠時無呼吸症候群やむずむず脚症候群など、睡眠の質を損なう原因が隠れていることがあります。
- 日中に耐え難い眠気が続く場合や、睡眠中に呼吸が止まっていると指摘された場合は、睡眠を専門とする医療機関の受診が推奨されます。
あなたの10時間睡眠は「寝すぎ」に当たるのか?
まず、10時間という睡眠時間が一般的にどう捉えられるのか、その基準から見ていきましょう。
一般的な睡眠時間の目安と「長時間睡眠」の定義
厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、成人の適正な睡眠時間をおおよそ6〜8時間とし、少なくとも6時間以上を確保するよう勧めています※1。
これより長い、9時間や10時間を超える睡眠は「長時間睡眠」と呼ばれることが多いものの、どこからを長時間とするかは研究によって8時間・9時間・10時間と分かれていて、決まった基準はありません※2。
とはいえ、これはあくまで目安です。必要な睡眠時間には個人差があり、年齢や季節、日中の活動量によっても変わります※1。
時間の長さだけでなく、その睡眠で心と体がしっかり休まっているかどうかも見てください。
ロングスリーパーという体質を知る
世の中には、10時間を超える長い睡眠を必要とする「ロングスリーパー」と呼ばれる人が一定数います※1。これは病気ではなく体質です。こうした人が睡眠を8時間に縮めると、かえって睡眠不足になることがあります※1。
ロングスリーパーは、体内時計がつくる「体にとっての夜」が、短い睡眠で足りる人より長かったという研究結果があります※3。ただ、なぜ長い睡眠が必要になるのか、くわしい仕組みはまだわかっていません。
ロングスリーパーの人は、必要な睡眠時間をとれていれば、日中の眠気やだるさに悩まされずに過ごせます。いつも10時間ほど眠っていて、日中の活動に困ることがないなら、体質の可能性があります。
なぜ10時間も寝てしまうのか?考えられる多角的な原因
体質とは別に、何かの理由で睡眠時間が長くなっていることもあります。原因は一つとは限らず、いくつかが重なっていることもあります。
睡眠負債の蓄積と不規則な生活習慣
平日の睡眠不足を、週末にまとめて取り返そうとする「寝だめ」の経験は多くの方にあるでしょう。これは「睡眠負債」を返済しようとする体の自然な反応です。ただし、このような習慣で実際に眠りを「ためる」ことはできません※1。
睡眠不足が続くと体が休みを強く求め、休日に10時間以上眠ってしまうことがあります※1。
ただ、平日と休日で睡眠がばらつくと、およそ24時間周期の体のリズム(体内時計)が乱れやすくなります※1。
リズムが乱れると眠りの質が落ち、長く寝てもぐっすり眠れた感じが得られにくくなることもあります※1。
精神的な要因が隠れている可能性
強いストレスや疲れがたまると、体が休みを求めて睡眠時間が長くなることがあります。
特に気をつけたいのは、うつ病などの心の病気の症状として、眠りすぎ(過眠)が出ている場合です。うつ病では、不眠だけでなく過眠の症状が出て、睡眠が長くなることもあります※1。
気分の落ち込み、何にも興味が持てない、やる気が出ないといった心の不調とあわせて眠りすぎがある場合は、専門家に相談してみてください。
身体的な疾患が原因となるケース
長時間睡眠の背景に、体の病気が隠れていることもあります。代表的なものは次のとおりです。
- 睡眠時無呼吸症候群(SAS):睡眠中に何度も呼吸が止まり、そのたびに脳が目を覚ましかけます。眠りの質が大きく落ちるため、日中の眠気や居眠り、休めた感じのなさとして現れ、寝床で過ごす時間が長くなることがあります※1。
- 甲状腺機能低下症:体の新陳代謝を活発にする甲状腺ホルモンが減る病気で、強いだるさや眠気が出ることがあります※4。軽い場合は症状がはっきりしないことも多く、血液検査で確かめます※5。
- その他:貧血、糖尿病、腎臓や肝臓の病気など、さまざまな病気でだるさや眠気が出ることがあります。飲んでいる薬の副作用で眠気が強くなることもあるので、気になるときは自己判断でやめず、処方した医師や薬剤師に相談してください。
10時間睡眠が健康に及ぼす影響とリスクの真実
「寝すぎは体に悪い」という話を耳にしたことがあるかもしれません。ここでは、長時間睡眠と健康リスクの関係と、その読み解き方を見ていきます。
長時間睡眠と死亡リスク:因果関係か、それとも「交絡」か?
長く眠る人ほど、7時間前後の人より死亡リスクが高い傾向は、実際に見られます。
日本を含む東アジアの約32万人を追跡した解析では、10時間以上眠る男性は、7時間の人に比べて死亡リスクが1.34倍でした※6。日本の大規模な追跡調査(JACC Study)でも、10時間以上の睡眠と死亡リスクの上昇に関連が見られています※7。
ただし、これは「長く眠ること自体がリスクを高めている」とは限りません。長時間睡眠と死亡リスクの両方に影響する、別の要因が隠れている可能性があるからです(交絡)※2。
たとえば、うつ病や睡眠時無呼吸症候群といった隠れた病気や、日中の活動量の少なさが、「睡眠が長くなること」と「死亡リスクが上がること」の両方を引き起こしている、という見方です※2。
長時間睡眠は健康問題の「原因」というより、何かの健康問題が隠れている「サイン」であることもあります。
こう考えると、睡眠が長いことだけで必要以上に不安になる必要はありません。
脳卒中や糖尿病など、その他の健康リスク
睡眠が長い人は、脳卒中や心臓病、糖尿病になりやすい傾向も見られます※8。
これも死亡リスクと同じように考えられます。運動不足や食生活などの生活習慣が重なっていることもあり、長時間睡眠だけが原因とは言い切れません。
日中のパフォーマンス低下と精神面への影響
病気がなくても、寝すぎがかえって日中の不調につながることがあります。起床後のだるさや、日中の集中力低下などがその例です※1。
寝すぎると頭が痛くなるという声もあります。気になるときは、まず毎朝の起きる時刻をそろえて、睡眠のリズムを整えてみてください。
また、睡眠のリズムが大きく乱れると、気分が不安定になりやすくなることもあります※1。
10時間寝ても疲れが取れないのはなぜ?睡眠の質の問題を考える
時間は足りているのにすっきりしないときは、眠りの「質」に問題があるのかもしれません。
睡眠効率の低下と原因
睡眠効率とは、寝床にいる時間のうち、実際に眠っている時間の割合のことです。
10時間寝床にいても、途中で何度も目が覚める(中途覚醒)、深い眠り(ノンレム睡眠のN3)が少ないといった状態では、心と体は十分に休まりません※1。
いびきや歯ぎしり、睡眠時無呼吸症候群、足がむずむずして眠れなくなる「むずむず脚症候群」などは、本人が気づかないうちに眠りの質を落とす代表的な原因です※1。
病的な過眠症との違いを理解する
長時間睡眠の背景に、治療が必要な睡眠の病気が隠れていることもあります。特に見分けておきたいのが「過眠症」です。
代表的なものにナルコレプシーや特発性過眠症があります。特発性過眠症には、夜間の睡眠時間そのものが10時間以上と長くなるタイプがあります※9。
過眠症そのものの診断基準や治療については、過眠症の原因・症状・治し方を解説した記事で詳しくまとめています。
過眠症では、睡眠時間が長いだけでなく、次のような症状が見られます※9。
- 日中の耐え難いほどの強い眠気
- 重要な会議中や会話中など、通常ではありえない状況での居眠り
- 笑ったり驚いたりした時に体の力が抜ける「情動脱力発作」(ナルコレプシー)
- 寝入りばなに、人や動物がそばにいるように感じるなど、現実と区別がつきにくい幻覚が現れる「入眠時幻覚」
10時間睡眠に加えて、こうした日中の強い眠気がある場合は、寝すぎや体質ではなく、専門医の診断が必要な状態かもしれません。
自分の10時間睡眠を見直すためのヒント
自分の睡眠をふり返り、整えていくための方法を紹介します。
睡眠日誌でパターンを把握する
まずは、自分の睡眠を記録することから始めてみましょう。寝た時刻、起きた時刻、夜中に目が覚めた回数、起きたときの気分、日中の眠気の強さなどを1〜2週間書き留めると、自分の睡眠のくせが見えてきます。
休日だけ睡眠時間が大きく延びるパターンが見えた場合は、寝溜めの効果と限界を解説した記事もあわせて確認してください。
その際、床に入っていた時間と、実際に眠っていた時間を分けて書くのがポイントです※1。
生活習慣の改善ポイント
睡眠の質を高めるためには、日中の過ごし方も大切です※1。
- 規則正しい生活:毎日できるだけ同じ時刻に起き、同じ時刻に寝ることで体内時計を整えます。
- 光を浴びる:朝起きたら太陽の光を浴び、日中も適度に屋外で過ごすことで、睡眠と覚醒のリズムが整いやすくなります。
- 適度な運動:日中に適度に体を動かすと、寝つきがよくなり、眠りも深くなりやすくなります。
- 就寝前の習慣:寝る前のカフェインやアルコール、スマートフォンの光は眠りの質を下げるので、なるべく避けましょう。
- 寝室環境:寝室を静かで暗く、暑すぎず寒すぎない温度に保つことも大切です。
ストレスマネジメントとリラックス習慣
心と体が緊張していると、寝つきが悪くなり、眠りも浅くなります。寝る1〜2時間前の入浴、好きな音楽、アロマ、瞑想など、リラックスの方法はいろいろあります。誰にでも効く方法があるわけではないので、自分が心地よいと感じるものを寝る前の習慣にしてみてください※1。
こんな場合は要注意:医療機関を受診する目安
セルフケアでよくならない場合や、次のような症状がある場合は、専門家に相談してください。
日中の強い眠気や集中力低下が続く場合
生活や仕事、勉強に支障が出るほどの強い眠気が続く場合は注意が必要です。
運転中や会議中に居眠りしてしまう、集中が続かずミスが増えたといった症状は、受診を考えるサインです※1。
精神的な不調や身体症状を伴う場合
気分の落ち込みや不安、やる気が出ないといった心の不調が続く場合は、心療内科や精神科に相談してください。つらいときは、様子を見すぎずに早めに相談して構いません。
原因のわからないだるさや体重の変化など、体の症状がある場合は内科へ。甲状腺の病気でも、だるさや体重の増加が出ることがあります※4。
専門医への相談が推奨されるケース
いびきがひどい、睡眠中に呼吸が止まっていると指摘された、日中に耐え難い眠気があるなど、睡眠障害が疑われる場合は、睡眠を専門とする医療機関(睡眠外来、呼吸器内科、精神科など)を受診することをおすすめします。
自己判断で様子を見続けず、まずは診断を受けてみてください。
まとめ
10時間睡眠という状態は、必ずしも「寝すぎ」や「異常」を意味するわけではありません。健康維持に必要な睡眠時間が長いロングスリーパーという体質の人もいます。
一方で、その背景には睡眠不足の積み重ね(睡眠負債)やストレス、睡眠時無呼吸症候群やうつ病といった病気が隠れていることもあります。
長時間睡眠と死亡リスクの関連も、睡眠そのものが原因というより、背景にある健康問題のサインとして見るとわかりやすくなります。
- 10時間睡眠は、必ずしも「寝すぎ」や「異常」を意味するわけではない
- 健康維持に必要な睡眠時間が長いロングスリーパーという体質の人もいる
- 背景に睡眠負債の蓄積やストレス、睡眠時無呼吸症候群やうつ病が隠れている可能性がある
- 長時間睡眠と死亡リスクの関連は、背景にある健康問題のサインとして見る
- 時間数だけに一喜一憂せず、睡眠の質や日中のコンディションを客観的に見つめ直す
まずは生活習慣を整えるところから始めて、それでもよくならない場合や気になる症状がある場合は、ためらわずに専門の医療機関に相談してください。
FAQ
Q1: 10時間寝てもだるいのはなぜですか?
A1: 長時間寝てもだるさが残る場合、睡眠の「質」が低い可能性があります。
睡眠中に呼吸が止まる睡眠時無呼吸症候群や、足の不快感で眠りが浅くなるむずむず脚症候群などが隠れていることも考えられます※1。
また、不規則な睡眠リズムが体内時計を乱し、かえって倦怠感を引き起こしているケースもあります※1。
Q2: 毎日10時間以上寝ないと体が持ちません。これは病気ですか?
A2: 10時間以上眠れば日中の眠気もなく元気に過ごせるなら、体質としての「ロングスリーパー」の可能性があります。この場合は病気ではありません※1。
なお、もともと長い睡眠時間を必要とする人は、毎日6〜8時間眠っていても睡眠不足の状態になることがあります※9。
一方で、十分に眠っても日中に強い眠気がある場合や、ほかに体調不良がある場合は、過眠症や体の病気の可能性もあるため、専門医に相談してください。
Q3: 長時間睡眠は、うつ病のサインになることがありますか?
A3: はい、その可能性があります。うつ病では不眠がよく知られていますが、人によっては逆に睡眠が長くなる「過眠」として現れることがあります※1。
気分の落ち込み、何をしても楽しくない、やる気が出ないといった心の不調もある場合は、うつ病のサインの一つとして注意してください。
気になる場合は心療内科や精神科への相談をご検討ください。
- 厚生労働省『健康づくりのための睡眠ガイド2023』令和6年2月. https://www.mhlw.go.jp/content/001305530.pdf(睡眠時間や生活習慣についての国の最新の指針)
- Léger D, Beck F, Richard JB, Sauvet F, Faraut B. The risks of sleeping “too much”. Survey of a national representative sample of 24671 adults (INPES health barometer). PLoS One. 2014; 9(9): e106950. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0106950(フランスの成人約2万5千人を対象に、長く眠る人の特徴を調べた調査)
- Aeschbach D, Sher L, Postolache TT, Matthews JR, Jackson MA, Wehr TA. A longer biological night in long sleepers than in short sleepers. J Clin Endocrinol Metab. 2003; 88(1): 26-30. https://doi.org/10.1210/jc.2002-020827(長く眠る人と短く眠る人の体内時計を比べた研究)
- 日本内分泌学会『甲状腺機能低下症』(一般の皆様へ). https://www.j-endo.jp/modules/patient/index.php?content_id=38(甲状腺機能低下症の症状と検査の解説)
- 日本甲状腺学会『甲状腺疾患診断ガイドライン2024』. https://www.japanthyroid.jp/doctor/guideline/japanese.html(甲状腺の病気の診断の目安)
- Svensson T, Saito E, Svensson AK, et al. Association of sleep duration with all- and major-cause mortality among adults in Japan, China, Singapore, and Korea. JAMA Netw Open. 2021; 4(9): e2122837. https://doi.org/10.1001/jamanetworkopen.2021.22837(東アジア4か国の約32万人で睡眠時間と死亡リスクを調べた解析)
- Ikehara S, Iso H, Date C, Kikuchi S, Watanabe Y, Wada Y, Inaba Y, Tamakoshi A. Association of sleep duration with mortality from cardiovascular disease and other causes for Japanese men and women: the JACC study. Sleep. 2009; 32(3): 295-301. https://doi.org/10.1093/sleep/32.3.295(日本人の睡眠時間と死亡リスクを調べた調査)
- Jike M, Itani O, Watanabe N, Buysse DJ, Kaneita Y. Long sleep duration and health outcomes: a systematic review, meta-analysis and meta-regression. Sleep Med Rev. 2018; 39: 25-36. https://doi.org/10.1016/j.smrv.2017.06.011(長時間睡眠と病気の関係をまとめた分析)
- 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 睡眠・覚醒障害研究部『中枢性過眠症』. https://www.ncnp.go.jp/nimh/sleep/sleep-medicine/hypersomnia/index.html(過眠症の種類と症状の解説)