加藤 隆郎
記事の医学監修
久留米大学 医学部 神経精神医学講座 助教 加藤 隆郎 先生
監修範囲:睡眠時無呼吸症候群に関する医学的記述  /  最終監修日:2026.02.17
監修ポリシー

「いびきがうるさいと家族に言われる」「日中、どうしようもない眠気に襲われることがある」。このような症状に心当たりはありませんか? もしかすると、それは睡眠時無呼吸症候群(SAS: Sleep Apnea Syndrome)のサインかもしれません。

「でも、睡眠時無呼吸症候群は太っている人の病気でしょう?」そう思われる方も多いかもしれません。しかし、それは大きな誤解です。実は、痩せ型の人でも睡眠時無呼吸症候群になる可能性は十分にあります。

この記事では、なぜ痩せ型でも睡眠時無呼吸症候群になるのか、その原因を骨格や生活習慣の観点から詳しく解説します。また、ご自身で確認できるセルフチェックリストや、具体的な対策法、治療法についてもご紹介します。原因を知り、適切に対処することで、睡眠の質を高め、健康的な毎日を取り戻しましょう。

この記事の要点
  • 睡眠時無呼吸症候群(SAS)は肥満の人だけの病気ではなく、痩せ型でも発症します。
  • 痩せ型SASの大きな原因は、顎が小さいなど日本人に多い「骨格」的な特徴による気道の狭さです。
  • 筋肉量の低下・鼻づまり・飲酒や睡眠薬なども、痩せ型のSASに関わります。
  • いびきや日中の強い眠気は見逃せないサインで、放置は高血圧・心臓病・脳卒中のリスクを高めます。
  • CPAP療法やマウスピースは痩せ型にも有効で、生活習慣の改善や舌・喉のトレーニングも役立ちます。

痩せ型でも睡眠時無呼吸症候群(SAS)になるのはなぜ?主な原因を徹底解説

睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に呼吸が何度も止まったり、浅くなったりする病気です。主な原因は、空気の通り道である「上気道」が狭くなることにあります。肥満の人は、首周りの脂肪が気道を圧迫するためSASになりやすいとされていますが、痩せ型の人には別の原因が隠れていることが多いのです。

日本人に多い「骨格」が原因となるケース

痩せ型SASの最も大きな原因の一つが、生まれつきの顔や顎の骨格です。特に日本人は、欧米人に比べて以下の特徴を持つ人が多く、これが気道を狭くする要因となります。

  • 顎が小さい・細い:下顎が小さいと、舌が収まるスペースも狭くなります。睡眠中に筋肉が緩むと、舌が喉の奥に落ち込み(舌根沈下)、気道を塞ぎやすくなります。
  • 顔の奥行きが少ない(平坦な顔立ち):顔の骨格に奥行きがないと、相対的に気道も狭くなる傾向があります。
  • 下顎が後退している:いわゆる「出っ歯」や「受け口」とは逆に、下顎が喉の方に引っ込んでいる骨格も、気道を狭くする一因です。
痩せていてもリスクがある理由

これらの骨格的特徴は、体重に関係なく気道の物理的なスペースを狭めてしまうため、痩せていてもSASを発症するリスクが高まります。(参考:Lee ら 2010, 2)

また、子供の場合は、喉の奥にある扁桃腺やアデノイド(鼻の奥にあるリンパ組織)が大きいことが原因で気道が狭くなり、SASを引き起こすこともあります。

体重以外に影響する「生活習慣」と「体の状態」

骨格だけでなく、日々の生活習慣や体の状態もSASの発症に大きく関わっています。

  • 筋肉量の低下:加齢や運動不足により、舌や喉周りの筋肉が衰えると、睡眠中に気道を支える力が弱まります。その結果、舌が落ち込みやすくなり、気道が塞がれてしまいます。
  • 自律神経の乱れ:ストレスや不規則な生活によって自律神経が乱れると、睡眠中の呼吸コントロールに影響が出ることがあります。呼吸が不安定になり、無呼吸を引き起こしやすくなるのです。
  • 鼻づまりやアレルギー性鼻炎:慢性的な鼻づまりがあると、自然と口呼吸になります。口呼吸では舌が喉の奥に落ち込みやすく、気道が狭くなるため、いびきや無呼吸の原因となります。
  • 飲酒や睡眠薬の使用:アルコールや一部の睡眠薬には、筋肉を緩ませる「筋弛緩作用」があります。就寝前に摂取すると、喉周りの筋肉が通常以上に緩み、気道が閉塞しやすくなります。

その他の隠れた原因

まれに、特定の病気が原因でSASを発症することがあります。例えば、甲状腺機能低下症は舌が大きくなることがあり、気道を狭める原因になります。また、アミロイドーシスという病気で舌や喉に異常なたんぱく質が沈着することも、SASの一因となり得ます。特定の薬剤の副作用として、喉の筋肉が緩むことも考えられます。

痩せ型SASのサインを見逃さない!セルフチェックリスト

自分では気づきにくいのが睡眠中の症状です。以下のリストを参考に、ご自身の状態をチェックしてみましょう。

睡眠中のサイン

  • 大きないびきをかく、または、いびきが途中で止まり、大きな呼吸とともに再開する。
  • 睡眠中に呼吸が止まっている、または苦しそうにしていると家族やパートナーに指摘されたことがある。
  • 夜中に何度も目が覚める(息苦しさ、トイレなど)。
  • 寝汗をかくことが多い。
  • 寝言が多い、または寝相が非常に悪い。

日中のサイン

  • 朝起きたときに頭痛がする、または頭が重い感じがする。
  • 十分な時間寝たはずなのに、熟睡感がなくスッキリしない。
  • 日中に強い眠気があり、会議中や運転中に居眠りをしてしまうことがある。
  • 集中力や記憶力が低下したと感じる。
  • 理由なく気分が落ち込んだり、イライラしたりすることが増えた。

専門医に相談すべき目安

放置せず受診を

上記のサインに複数当てはまる場合、特に「家族からの呼吸停止の指摘」や「日中の強い眠気」がある場合は、睡眠時無呼吸症候群の可能性が考えられます。放置すると、高血圧や心臓病、脳卒中などの生活習慣病のリスクを高めることにも繋がります。気になる症状があれば、早めに呼吸器内科や耳鼻咽喉科、睡眠専門のクリニックを受診しましょう。(参考:日本呼吸器学会ガイドライン 1)(参考:Marin ら 2005, 4)

痩せ型SASの疑いがある場合の検査と診断

医療機関では、問診や診察の後、睡眠中の呼吸状態を調べる検査を行います。検査には大きく分けて、自宅でできる簡易検査と、医療機関に一泊して行う精密検査があります。

簡易検査(自宅でできる検査)

まずは自宅で手軽に行える簡易検査から始めることが一般的です。指先にセンサー(パルスオキシメーター)をつけたり、鼻や胸にセンサーを取り付けたりして、睡眠中の呼吸の状態や血液中の酸素濃度を測定します。この検査でSASの疑いが強いと判断された場合に、精密検査に進みます。

精密検査(医療機関で行う検査)

精密検査は「終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG検査)」と呼ばれ、SASの確定診断のために行われます。病院やクリニックに一泊入院し、体に多くのセンサーを取り付けて眠ります。脳波、眼球運動、筋電図、心電図、呼吸、血中酸素飽和度などを総合的に測定し、無呼吸の回数や種類、睡眠の質などを詳細に評価します。

検査について

痛みはなく、普段通りに眠るだけで検査は完了します。

痩せ型SASの治療法とセルフケア・予防策

検査でSASと診断された場合、重症度や原因に応じた治療が行われます。同時に、日常生活でのセルフケアも症状の改善に非常に重要です。

医療機関での治療法

  • CPAP(シーパップ)療法:鼻に装着したマスクから空気を送り込み、その圧力で気道が塞がるのを防ぐ治療法です。SAS治療の第一選択とされ、痩せ型の人にも非常に効果的です。骨格が原因で気道が狭い場合でも、物理的に気道を開存させることができます。
  • マウスピース(口腔内装置):下顎を前方に少し突き出させた状態で固定するマウスピースを、睡眠中に装着します。これにより舌の落ち込みを防ぎ、気道を広げる効果があります。特に軽症から中等症のSASで、骨格に原因がある場合に有効です。
  • 外科手術:扁桃腺やアデノイドの肥大が原因の場合、それらを切除する手術が検討されることがあります。また、鼻の通りを良くする手術や、顎の骨格を修正する手術が行われることもあります。
  • 原因疾患の治療:甲状腺機能低下症など、他の病気がSASの原因となっている場合は、その病気の治療を優先します。

CPAP療法は痩せ型の方を含め、SAS治療で中心的な役割を果たします。(参考:日本呼吸器学会ガイドライン 1)

日常生活でのセルフケアと予防

医療機関での治療と並行して、生活習慣を見直すことで症状の改善や予防が期待できます。

  • 規則正しい睡眠習慣の確立:毎日同じ時間に寝て起きることで、体内時計を整え、睡眠の質を高めます。
  • 寝る前の飲酒・カフェイン摂取を控える:アルコールは喉の筋肉を緩ませ、カフェインは睡眠を浅くします。就寝3〜4時間前からは控えましょう。
  • 禁煙:喫煙は喉の炎症を引き起こし、気道を狭くする原因になります。
  • 鼻呼吸を意識する:鼻づまりがある場合は、耳鼻咽喉科で治療を受けましょう。市販の鼻腔拡張テープなども有効です。
  • 適度な運動による筋力維持:全身の筋力維持はもちろん、舌や喉周りの筋肉を鍛えることも効果的です。
  • 寝具の見直し:枕が高すぎると顎が引けて気道が狭くなります。自分に合った高さの枕を選びましょう。横向きに寝ることも、舌の落ち込みを防ぐのに効果的です。
おすすめエクササイズ

具体的なエクササイズ例:「あいうべ体操」や「舌回し運動」がおすすめです。口を大きく開けて「あー」「いー」「うー」「べー(舌を出す)」と動かしたり、口を閉じたまま舌で歯茎をなぞるようにゆっくり回したりする運動を、毎日数分間続けてみましょう。(参考:Guimarães ら 2009, 3)

睡眠時無呼吸症候群(SAS)に関するよくある質問(FAQ)

痩せ型でもCPAPは有効ですか?

はい、非常に有効です。CPAP療法は、体重に関わらず、空気の圧力で物理的に気道を開いた状態に保つ治療法です。そのため、骨格的な問題で気道が狭くなっている痩せ型の方のSAS治療においても、中心的な役割を果たします。

SASになりやすい体型は?

一般的には肥満体型の人が多いですが、痩せ型でも「顎が小さい」「下顎が後退している」「首が短い」といった骨格的な特徴を持つ人はSASになりやすいと言えます。これは日本人によく見られる特徴でもあります。

痩せ型の人がいびきをかく原因は何ですか?

痩せ型の人のいびきの主な原因は、睡眠中に舌や喉の筋肉が緩み、狭くなった気道を空気が通る際の振動音です。特に、顎が小さいなどの骨格的な特徴があると、もともと気道が狭いため、少し筋肉が緩んだだけでもいびきをかきやすくなります。

睡眠時無呼吸症候群の予防法は?

規則正しい生活、適度な運動による筋力維持、禁煙、寝る前の飲酒を控えることなどが挙げられます。また、鼻呼吸を心がけ、横向きで寝ることも効果的です。特に、舌や喉の筋肉を鍛える「あいうべ体操」などのエクササイズは、手軽に始められる予防策としておすすめです。

睡眠時無呼吸症候群は子供でもなりますか?

はい、子供でも発症します。子供の場合、主な原因はアデノイドや扁桃腺の肥大です。いびきが大きい、口を開けて寝ている、日中の落ち着きがない、学業成績が振るわないなどのサインがあれば、小児科や耳鼻咽喉科に相談することをおすすめします。

まとめ

この記事では、痩せ型の人でも睡眠時無呼吸症候群(SAS)になる原因と、その対策について詳しく解説しました。

  • 痩せ型SASの主な原因は、肥満ではなく「骨格」や「筋肉量の低下」「生活習慣」にある。
  • 特に、顎が小さいといった日本人特有の骨格は、SASの大きな要因となる。
  • いびきや日中の強い眠気は、見逃してはならない重要なサイン。
  • 気になる症状があれば、セルフチェックリストで確認し、早めに専門医に相談することが大切。
  • 治療法にはCPAP療法やマウスピースがあり、痩せ型でも高い効果が期待できる。
  • 生活習慣の改善や、舌・喉のトレーニングなどのセルフケアも症状の軽減に繋がる。

「自分は痩せているから大丈夫」という思い込みは禁物です。SASは放置すると心身に様々な悪影響を及ぼす可能性があります。質の高い睡眠は、健康的な生活の基盤です。少しでも気になる症状があれば、決して一人で悩まず、専門の医療機関に相談してください。適切な検査と治療を受けることで、健やかな毎日を取り戻しましょう。

参考資料・文献一覧
  1. 日本呼吸器学会『睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020』 https://www.jrs.or.jp/publication/file/guidelines_sas2020.pdf
  2. Lee RWW, Vasudavan S, Hui DS, et al. Differences in craniofacial structures and obesity in Caucasian and Chinese patients with obstructive sleep apnea. Sleep. 2010; 33(8): 1075-1080. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20815189/
  3. Guimarães KC, Drager LF, Genta PR, et al. Effects of oropharyngeal exercises on patients with moderate obstructive sleep apnea syndrome. Am J Respir Crit Care Med. 2009; 179(10): 962-966. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19234106/
  4. Marin JM, Carrizo SJ, Vicente E, Agusti AGN. Long-term cardiovascular outcomes in men with obstructive sleep apnoea-hypopnoea with or without treatment with continuous positive airway pressure: an observational study. Lancet. 2005; 365(9464): 1046-1053. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15781100/

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