加藤 隆郎
記事の医学監修
久留米大学 医学部 神経精神医学講座 助教 加藤 隆郎 先生
監修範囲:睡眠時無呼吸症候群に関する医学的記述  /  最終監修日:2026.03.19
監修ポリシー

睡眠時無呼吸症候群の治療法として注目されるマウスピース。その手軽さや効果に期待する声がある一方で、「本当に安全なのか」「どんな副作用があるのか」といったデメリットへの不安も少なくありません。

本記事では、睡眠時無呼吸症候群のマウスピース治療における具体的なデメリットを、顎関節や歯への影響、治療効果の限界、費用といった多角的な視点から解説します。さらに、これらのデメリットを最小限に抑える対策や、治療を検討するうえで知っておきたいポイントもご紹介し、ご自身に最適な治療選択の一助となることを目指します。

この記事の要点
  • マウスピース(口腔内装置)は下顎を前方に保つことで気道を広げ、いびきや軽症〜中等症の閉塞性睡眠時無呼吸症候群に用いられます。
  • 主なデメリットは顎関節への負担や痛み、長期使用による歯の移動・噛み合わせの変化、口の渇きや初期の不快感などです。
  • 重症(AHIが30以上が目安)では効果が不十分なことが多く、中等症〜重症ではCPAPが標準治療とされます。
  • 顎関節症がある方、歯が少ない・重度の歯周病の方、強い鼻づまりや極度の肥満がある方は、適さない、または効果が出にくい場合があります。
  • 副作用や効果低下を防ぐには、医科と歯科が連携して定期的に調整・検査を受け、自己判断で削ったり中止したりしないことが大切です。

睡眠時無呼吸症候群とマウスピース治療の基本

睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは?

睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome:SAS)は、睡眠中に何度も呼吸が止まったり浅くなったりする病気です。この状態を放置すると身体は慢性的な酸素不足に陥り、心臓や血管に負担がかかって、高血圧、心疾患、脳卒中、糖尿病などのリスクを高めることが知られています。主な症状は、大きないびき、日中の強い眠気、起床時の頭痛、熟睡感の欠如、集中力や記憶力の低下などで、居眠り運転など重大な事故の原因にもなり得るため、早期の発見と適切な治療が欠かせません。

POINT(診断の基準)

医学的には、10秒以上の気流停止を「無呼吸」、気流がおおむね30%以上低下して血中酸素の低下や覚醒を伴う状態を「低呼吸」と判定し、これらが1時間あたり5回以上(症状を伴う場合)でSASと診断されます。重症度は1時間あたりの無呼吸・低呼吸の合計回数を示すAHI(無呼吸低呼吸指数)で評価し、米国睡眠医学会の基準では軽症5〜15、中等症15〜30、重症30以上に分類されます。

マウスピース治療(スリープスプリント)の仕組みと効果

睡眠時無呼吸症候群の治療法の一つに、マウスピース(スリープスプリント、口腔内装置:OA)を用いる方法があります。SASの多くは、睡眠中に舌の付け根や軟口蓋が重力で下がり気道を塞ぐ「閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)」です。マウスピースは下顎を上顎より数ミリ前方に引き出した状態で保持するように設計されており、これにより舌の付け根も前方に引き上げられて気道が広がり、いびきや無呼吸の軽減が期待できます。装置はコンパクトで持ち運びやすく、電源も不要なため、出張や旅行が多い方にも適しています。

マウスピース治療の適応範囲

マウスピース治療は、すべての患者さんに適しているわけではありません。主に推奨されるのは、軽度から中等度の閉塞性睡眠時無呼吸症候群の方です。重症の場合はCPAP(持続陽圧呼吸療法)が第一選択となることが多く、マウスピース単独では十分な効果が得られない可能性があります。

POINT(CPAPとの使い分け)

診療ガイドラインでは、口腔内装置はCPAPにどうしても耐えられない、または代替療法を希望する成人のOSA患者さんに推奨されています(参考:Ramar ら 2015, 1)。一方、中等症から重症のOSAに対しては、CPAPが標準的な治療と位置づけられています(参考:Patil ら 2019, 2)。マウスピース治療が適応となるかは、睡眠検査(ポリソムノグラフィーなど)の結果に基づき、医科(呼吸器内科・耳鼻咽喉科など)と歯科が連携して判断することが重要です。

知っておくべきマウスピース治療の具体的なデメリット

身体的な影響(顎関節・歯・口腔内)

マウスピースの装着は、口腔内や顎の関節に物理的な変化をもたらすため、さまざまな身体的影響を引き起こす可能性があります。

  • 顎関節への負担と痛み:下顎を前方に突き出した状態で固定するため、顎の関節や咀嚼筋に持続的な緊張がかかります。起床時の顎の違和感・だるさ・痛み、開口障害、関節雑音(カクカク音)など、顎関節症の症状を誘発・悪化させるリスクがあります。もともと顎関節に問題がある方や歯ぎしり・食いしばりの癖がある方は特に注意が必要です。
  • 歯や噛み合わせへの影響:歯を支えに下顎を前方へ保持するため、長期間の使用で歯に持続的な力が加わり、徐々に歯が移動・傾斜して噛み合わせ(咬合)が変化することがあります。前歯が噛み合わない(開咬)、下の前歯が前に出る(反対咬合)などが生じる可能性があります。また唾液の流れが妨げられやすく、口腔ケアを怠ると虫歯や歯周病のリスクが高まります。
  • 口腔内の不快感と初期症状:治療開始初期は異物感が強く、吐き気を感じたり無意識に外したりすることがあります。唾液が増えて飲み込みにくい、逆に口呼吸で乾燥する、装置の縁が舌や頬に当たって口内炎ができる、などが起こり得ます。多くは数週間〜数ヶ月で慣れますが個人差があります。
  • その他の身体的デメリット:下顎を保持する筋肉の緊張が首・肩・頭部へ波及して頭痛や肩こりを起こすことがあります。材質が合わない・清掃不十分だと、歯茎や粘膜に炎症を起こすこともあります。

治療効果に関する限界

マウスピースには気道を広げる効果がありますが、すべての人に十分な改善が見込めるわけではありません。

注意(重症例)

重症(AHIが30以上が目安)のOSAでは気道の閉塞が強固で、下顎を前方に引き出すだけでは十分な気道確保が難しく、いびきは軽減しても無呼吸を正常域まで減らせないことが多くあります。重症例では、より確実に気道を確保できるCPAPが標準治療として推奨されます(参考:Patil ら 2019, 2)。

  • 効果の個人差:骨格、肥満の程度、気道閉塞の部位などで効果は大きく異なります。極度の肥満で首周りの脂肪が厚い場合や、扁桃肥大など気道自体に狭窄がある場合は、下顎を前方に動かしても気道が十分広がらないことがあります。
  • 長期的な効果の持続性:長期使用で顎や筋肉が位置に慣れたり、加齢で気道の組織が変化したりして、初期ほどの効果が得られなくなることがあります。特に治療開始後の体重増加は効果低下の大きな要因です。

日常生活におけるデメリットと費用

  • 手入れ・破損・持ち運び:毎晩の装着と起床時の洗浄が必要で、専用洗浄剤などで衛生的に保つ手間がかかります。樹脂製のため強い力で破損するリスクがあり(歯ぎしりが強い方は特に注意)、紛失・破損時の再作成には時間と費用がかかります。旅行・出張時はケースや洗浄剤の携帯と衛生管理も必要です。
  • 費用と保険適用:SASの診断基準を満たし、医師(医科)の紹介状(診療情報提供書)を持参して歯科を受診した場合は健康保険が適用され、自己負担(3割)は検査・作成費を含めおおよそ1万5千円〜2万円程度が目安です。いびき防止のみが目的、または医師の診断・紹介状がない場合は自由診療となり、数万円〜10万円以上かかることもあります。

なお、市販のいびき防止用マウスピースは数千円程度と安価ですが、個人の歯型や顎に合わせて作られていないため効果が薄いだけでなく、顎関節や歯並びに悪影響を及ぼすリスクが高く、専門家としては推奨できません。

デメリットを最小限に抑えるための対策と注意点

POINT(医療機関選び)

まず医科(呼吸器内科・耳鼻咽喉科・睡眠外来など)で正確な診断を受け、マウスピース治療が適応と判断されたうえで、SASの治療に精通した歯科を紹介してもらうのが最も確実な流れです。診療ガイドラインでも、歯科医師が定期的にフォローして咬合の変化など歯科的な副作用を監視し、その発生を抑えることがすすめられています(参考:Ramar ら 2015, 1)。医科と歯科が緊密に連携している医療機関だとより安心です。

マウスピースの種類と選び方

  • 上下顎一体型(固定式):上下の歯を固定して下顎を確実に前方保持できますが、装着中は口を開けたり顎を動かしたりできず、拘束感や顎関節への負担が大きくなりやすいです。
  • 上下顎分離型(可動式):上下のパーツが分かれ、装着したままでも多少口を動かせるため拘束感や顎への負担が軽減されますが、構造が複雑で費用が高くなる傾向があります。

どちらが適しているかは、症状の程度・顎関節の状態・予算などを総合的に考え、歯科医師と相談して決めましょう。

装着時の使い方と、違和感・痛みを感じた場合の対処

装着初期は違和感や痛みが出やすいため、無理をせず短い時間から始めて徐々に慣らします。下顎を前に出す量(前方移動量)は、効果と顎への負担のバランスを見ながら微調整が必要で、初めは負担の少ない位置から効果を確認しつつ調整していきます。この微調整は自己判断せず、必ず歯科医師に依頼してください。

注意

使用中に顎関節の痛み、歯が浮く感じ、噛み合わせの違和感などを感じた場合は、決して自己判断で我慢して使い続けたり、自分で削ったりしないでください。これらは調整が合っていない、または顎関節に過度な負担がかかっているサインです。速やかに使用を一時中止し、作成した歯科医院に連絡して診察を受けてください。多くは削合や前方移動量の調整で改善します。

長期的な口腔ケアとメンテナンス

毎朝外したら、流水下で柔らかい歯ブラシを使って優しく汚れを落としましょう。研磨剤入りの歯磨き粉は装置に傷をつけるため避け、定期的に専用洗浄剤を使うと細菌の繁殖や臭いを防げます。マウスピース使用中は虫歯や歯周病のリスクが高まることを意識し、毎日の丁寧な歯磨きに加え、歯科での定期検診とプロフェッショナルケア(クリーニング)を受けることが強くすすめられます。

マウスピース治療が向いている人・向いていない人

向いている人の特徴

  • 軽度から中等度の閉塞性睡眠時無呼吸症候群で、気道の閉塞がそれほど強固でない方
  • 重症でも、CPAPのマスクや空気圧にどうしても耐えられず継続が難しい方(代替手段として)
  • 無呼吸は伴わないが大きないびき(単純性いびき症)に悩んでいる方
  • 出張や旅行が多く、持ち運びのしやすさを重視する方

向いていない人の特徴と注意点

  • 重症のSASの方:気道の閉塞が強く、マウスピースだけでは十分な改善が見込めない可能性が高く、CPAPが優先されます。
  • 顎関節症がある方:装着が顎関節に負担をかけ、症状を悪化させる危険があります。
  • 歯や歯周組織の状態が不十分な方:重度の歯周病で歯が動揺している、残っている歯が極端に少ない、総入れ歯の方は、固定の土台となる歯が不足し作成が困難です。
  • 極度の肥満や強い鼻づまりがある方:効果が出にくく、鼻呼吸ができない状態で装着すると口呼吸も制限され、かえって息苦しさを感じることがあります。

他の治療法との比較検討:CPAP・手術・生活習慣

睡眠時無呼吸症候群の治療法はマウスピースだけではありません。それぞれの特徴を理解して比較検討することが大切です。

項目 マウスピース(口腔内装置) CPAP(持続陽圧呼吸療法)
主な適応 軽症〜中等症、CPAP不耐用・希望例の代替 中等症〜重症の標準治療
携帯性 小型・電源不要で持ち運びやすい 装置が大きく持ち運びは不便
効果 重症では不十分なことがある 重症でも高い確率で無呼吸を解消
主な負担 顎関節・歯への負担、噛み合わせの変化 マスク・空気圧の不快感、月々の費用

CPAPは鼻に装着したマスクから空気を送り込み、気道に陽圧をかけて閉塞を防ぐ治療法で、中等症から重症のSASに対する標準的かつ確実な治療とされています。重症例でも高い確率で無呼吸を解消できる一方、装置が大掛かりで持ち運びが不便、マスクや空気圧の不快感で継続できない方が一定数いる、毎月の受診と機器レンタル費用(保険適用で月額5,000円程度)が継続的にかかる、といった点があります(参考:Patil ら 2019, 2)。

手術・生活習慣の改善

小児のSASや、大人でも扁桃肥大・アデノイド肥大など気道を狭くする明らかな解剖学的原因がある場合は、手術(口蓋垂軟口蓋咽頭形成術など)が検討されることがあります。手術は根本的な解決になり得る一方、全身麻酔のリスクや術後の痛み、効果が不十分・再発するリスクも伴います。

すべての治療の基盤となるのが生活習慣の改善です。肥満は気道を狭くする最大の要因のため減量は非常に効果的です。就寝前のアルコールや睡眠薬は筋肉を弛緩させ気道閉塞を悪化させるため控えること(参考:Ebrahim ら 2013, 3)、横向きで寝る(側臥位睡眠)ことで重力による舌の落ち込みを防ぐ工夫なども有効です。これらはマウスピースやCPAPと並行して行うことで、より高い効果が期待できます(参考:厚生労働省 4)。

睡眠時無呼吸症候群に関するよくある疑問

マウスピースで無呼吸症候群は完治しますか?

マウスピースは装着している間だけ気道を広げる対症療法であり、病気そのものを根本から治す(完治させる)ものではありません。外せば再び無呼吸の症状が現れます。

根本的な改善には、肥満の解消など原因に対するアプローチが必要です。

マウスピースが効かないのはなぜですか?どうすればいいですか?

症状が重症である、肥満が強い、下顎を前に出す量が不足している、鼻づまりがあるなど、さまざまな原因が考えられます。

効果を感じない場合は自己判断で使用をやめず、まずは作成した歯科医院で適合状態や調整量の確認を受けてください。それでも改善しない場合は、医科で再検査を受け、CPAPなど他の治療法への変更を検討します。

マウスピース装着で顎が痛いのですが、どうすればいいですか?

顎関節に過度な負担がかかっている状態です。無理に使い続けると顎関節症を悪化させる恐れがあります。

速やかに使用を中止し、歯科医院を受診してマウスピースの調整(下顎を前に出す量を減らすなど)を依頼してください。

歯並びや噛み合わせが悪くなることはありますか?長期的な影響は?

長期間の使用により、歯が移動して噛み合わせが変化するリスクはあります。

これを防ぐには、定期的に歯科医院で噛み合わせのチェックを受け、必要に応じてマウスピースの調整を行うことが重要です。

マウスピース治療の費用はどのくらいですか?保険は適用されますか?

医科で睡眠時無呼吸症候群と診断され、紹介状を持って歯科医院を受診した場合、保険が適用されます。3割負担で約1万5千円〜2万円程度が目安です。

いびき防止のみが目的の場合や紹介状がない場合は自由診療となり、全額自己負担(数万円〜)となります。

市販のマウスピースでも効果はありますか?医療機関の作成品との違いは?

市販品は個人の歯型や顎の状態に合わせて作られていないため、効果が不確実なだけでなく、歯や顎関節に不均等な力がかかり、痛みや噛み合わせの異常を引き起こすリスクが高くなります。

安全かつ効果的な治療のためには、必ず医療機関で専用のマウスピースを作成することをおすすめします。

長期的に使用しても問題ないですか?

適切なメンテナンスと定期的な歯科検診を受けていれば、長期的な使用は可能です。

ただし、加齢や体重変化で効果が低下したり、徐々に噛み合わせが変化したりする可能性があるため、定期的な経過観察は必須です。

デメリットを感じたら、すぐに治療を中止すべきですか?

初期の違和感や軽い痛みであれば、慣れるまで様子を見るか、装着時間を短くして調整することで改善することが多いです。

しかし、強い痛みや明らかな噛み合わせの異常を感じた場合は、自己判断で中止したり我慢したりせず、すぐに専門医(歯科医師)に相談してください。

まとめ

  • マウスピースは軽症〜中等症のOSAやいびきに有効だが、顎関節・歯への負担や噛み合わせの変化などのデメリットがある
  • 重症(AHI30以上が目安)では効果が不十分なことが多く、中等症〜重症ではCPAPが標準治療
  • 顎関節症・歯の状態・強い鼻づまり・極度の肥満がある場合は適さない、または効果が出にくい
  • 医科と歯科の連携のもとで定期的に調整・検査を受け、自己判断で削ったり中止したりしないことが大切

睡眠時無呼吸症候群のマウスピース治療には、顎関節や歯への影響、効果の限界、費用などのデメリットがあります。しかしこれらを正しく理解し適切な対策を講じれば、多くの方が安全かつ効果的に治療を受けられます。重要なのは、自己判断せず専門の医療機関を受診し、ご自身の症状や口腔状態、ライフスタイルに合った治療法を専門家とじっくり相談することです。適切な情報を得て、より良い睡眠と健康を取り戻す一歩を踏み出しましょう。

参考資料・文献一覧
  1. Ramar K, Dort LC, Katz SG, et al. Clinical Practice Guideline for the Treatment of Obstructive Sleep Apnea and Snoring with Oral Appliance Therapy: An Update for 2015. J Clin Sleep Med. 2015; 11(7): 773-827. https://jcsm.aasm.org/doi/10.5664/jcsm.4858
  2. Patil SP, Ayappa IA, Caples SM, et al. Treatment of Adult Obstructive Sleep Apnea With Positive Airway Pressure: An American Academy of Sleep Medicine Clinical Practice Guideline. J Clin Sleep Med. 2019; 15(2): 335-343. https://jcsm.aasm.org/doi/10.5664/jcsm.7640
  3. Ebrahim IO, Shapiro CM, Williams AJ, Fenwick PB. Alcohol and Sleep I: Effects on Normal Sleep. Alcohol Clin Exp Res. 2013; 37(4): 539-549. https://doi.org/10.1111/acer.12006
  4. 厚生労働省『健康づくりのための睡眠ガイド2023』2024. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/suimin/index.html

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