「レム睡眠行動障害」と診断され、あるいはその疑いを指摘されて、「この症状は治るのだろうか」と深い不安を抱えていらっしゃるかもしれません。
夜、眠っている間に大声で叫んだり、手足を激しく動かしたりする症状は、ご本人だけでなく、隣で眠るご家族にとっても大きな心配事です。
現在の医療において、レム睡眠行動障害の原因そのものを取り除き、病気を完全になくしてしまう「完治」は、残念ながら難しいのが現状です(参考:米国睡眠医学会GL 1)。しかし、それは決して希望がないという意味ではありません。
適切な治療や生活上の工夫によって、危険な行動をコントロールし、症状を大幅に改善させることは十分に可能です。ただし、現在推奨されている薬剤はいずれも「条件付き推奨」で、根拠となるエビデンスの確実性は低い、あるいは非常に低いと評価されています(参考:米国睡眠医学会GL 1)。
安心して眠れる夜を取り戻し、生活の質を維持している方はたくさんいます。一方で、治療を受けていても、ある程度の寝言や夢に伴う動きが残ることは避けられない場合が多いとも指摘されています(参考:米国睡眠医学会GL 1)。
この記事では、レム睡眠行動障害の基本的な知識から、「治るのか」という問いに対する現在の医学的見解、具体的な治療法、そして将来的な関連疾患との向き合い方まで、あなたの不安を解消し、前向きな一歩を踏み出すための情報を詳しく解説します。
- レム睡眠行動障害は、レム睡眠中に筋肉の力が抜ける仕組み(筋アトニア)が働かず、夢の内容が行動として現れる病気です。
- 原因そのものを取り除く「完治」は現時点で難しく、レム睡眠行動障害の経過は生涯にわたることが多いとされています。
- 治療の最大の目標は、夢に伴う異常な行動を抑制し、本人と家族が安全に眠れる環境を確保することです。
- 24施設・1,280例を追跡した国際共同研究では、12年の追跡で73.5%がパーキンソン病やレビー小体型認知症などの神経変性疾患を発症しました。
- 眠っている間に大声で叫ぶ、暴れるといった行動を家族から指摘された場合は、睡眠専門外来や神経内科への相談を検討してください。
レム睡眠行動障害とは?その特徴とメカニズム
まずは、レム睡眠行動障害がどのような病気なのか、その基本的な特徴から理解を深めていきましょう。
夢を行動に移してしまう:症状の具体例と危険性
私たちの睡眠は、深い眠りの「ノンレム睡眠」と、浅い眠りで夢を見ることが多い「レム睡眠」が交互に繰り返されています(参考:下畑ら 2017, 2)。健康な人では、レム睡眠中に脳は活発に活動していても、全身の筋肉の力は抜けている(筋アトニア)ため、夢の内容が実際の行動として現れることはありません(参考:米国睡眠医学会GL 1)。
ところが、レム睡眠行動障害ではこの筋アトニアがうまく機能せず、夢の内容がそのまま行動となって現れてしまいます(参考:米国睡眠医学会GL 1)。
- 大声で叫ぶ、寝言を言う、笑う、泣く(覚醒させて確認すると、不快感や恐怖感を伴う悪夢が圧倒的に多い一方、楽しい夢のこともあります)(参考:下畑ら 2017, 2)
- 誰かに追いかけられる夢を見て、ベッドから逃げ出そうとする(参考:下畑ら 2017, 2)
- 夢の中で戦っているつもりで、腕を振り回したり、隣で寝ている人を殴ったり蹴ったりする(参考:下畑ら 2017, 2)
- ベッドから転落する(参考:下畑ら 2017, 2)
これらの行動の最中に、ご自身から目を覚ますことは多くありません。一方で、せん妄とは異なり、周囲の人が呼びかけると比較的容易に目が覚め、その際には夢の内容を思い出せることが多いとされています(参考:下畑ら 2017, 2)。
行動によって壁や家具に体をぶつけて怪我をしたり、ベッドパートナーに危害を加えてしまったりする危険性があり、安全の確保が非常に重要な課題となります(参考:米国睡眠医学会GL 1)。ベッドサイドのランプのような一見無害なものでも、投げたり振り回したりすることで凶器になりうると指摘されています(参考:米国睡眠医学会GL 1)。
なぜ起こるのか?発症の背景と原因を探る
レム睡眠中の筋アトニアを制御しているのは、脳の「脳幹」と呼ばれる部分にある神経回路です。具体的には、橋にある青斑下核や、延髄の巨大細胞性網様核が関与すると考えられています(参考:下畑ら 2017, 2)。
レム睡眠行動障害は、この脳幹の機能に何らかの異常が生じることで発症すると考えられています(参考:下畑ら 2017, 2)。
特に、α-シヌクレインというタンパク質が脳内に異常に蓄積することが、パーキンソン病やレビー小体型認知症といった神経変性疾患と関連することが知られており、レム睡眠行動障害もこれらの疾患の初期症状として現れる場合があります(参考:下畑ら 2017, 2)。
50歳以上の男性に多く見られる傾向がありますが、女性やより若い世代で発症するケースも存在します。
「男性に多い」はどこまで言えるのか
男性優位という傾向は、睡眠専門施設を受診した患者さんを対象とした研究で目立ちます。24施設で1,280例を追跡した国際共同研究では、平均年齢66.3歳、82.5%が男性でした(参考:Postuma ら 2019, 3)。
一方、一般住民1,997人を対象に睡眠ポリグラフ検査で調べた研究では、レム睡眠行動障害の有病率は1.06%で、男女差は認められていません(参考:Haba-Rubio ら 2018, 4)。若い世代では、抗うつ薬などの薬剤に伴うものやナルコレプシーに伴うものが多いとされています(参考:米国睡眠医学会GL 1)。
どのように診断される?専門医での検査プロセス
レム睡眠行動障害の診断は、自己判断ではできません。特徴的な症状からこの病気が疑われる場合、専門の医療機関での確定診断が必要です。
診断プロセスは、まず詳細な問診から始まります。いつから、どのような頻度で、どんな行動が見られるか、本人だけでなく、可能であればベッドパートナーからも情報を得ることが重要です(参考:下畑ら 2017, 2)。
そして、最も確実な診断方法は「終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)」です(参考:角ら 2021, 5)。この検査では、一晩入院して脳波や心電図、筋電図、呼吸の状態などを記録します。あわせて夜間の行動をビデオで記録することが診断に役立ちます(参考:下畑ら 2017, 2)。
なお、研究では在宅で睡眠ポリグラフ検査が行われた例もあり、実施方法は施設によって異なります(参考:Haba-Rubio ら 2018, 4)。
レム睡眠中であるにもかかわらず、筋緊張の低下が見られない(筋アトニアがない)ことを確認することで、レム睡眠行動障害の確定診断がなされます(参考:角ら 2021, 5)。国際的な診断基準では、繰り返す睡眠中の発声や複雑な運動行動、睡眠ポリグラフ検査でのレム睡眠中の筋緊張消失の欠如、他の睡眠障害・精神疾患・薬剤などで説明できないことなど、4項目すべてを満たすことが求められます(参考:下畑ら 2017, 2)。
「治るのか」への答え:完治の現状と症状改善の可能性
この記事の中心的なテーマである「治るのか」という問いについて、現在の医療が示す見解と、治療がもたらす可能性を詳しく見ていきます。
根本的な「完治」は難しい?現在の医療の見解
冒頭でも触れた通り、病気の原因そのものを取り除いて、二度と症状が出ない状態にする「根本的な完治」を目指す治療法は、現時点では確立されていません(参考:米国睡眠医学会GL 1)。これは、症状の背景に脳の神経細胞の変化が関わっていると考えられているためです(参考:下畑ら 2017, 2)。
この事実だけを聞くと、将来を悲観的に感じてしまうかもしれません。しかし、治療の目標は別のところにあります。
症状を「コントロール」し、生活の質を高めることはできる
レム睡眠行動障害の治療における最大の目標は、夢に伴う異常な行動を抑制し、本人と家族が安全に眠れる環境を確保することです(参考:米国睡眠医学会GL 1)。そして、この目標は適切な治療によって十分に達成可能です。
ただし、けがにつながらない範囲の寝言や動きであれば、薬をさらに強めることはかえって夜間の転倒や日中の眠気のリスクを高めるため、通常は勧められないとされています(参考:米国睡眠医学会GL 1)。
薬物療法や生活習慣の改善を組み合わせることで、症状の頻度を減らしたり、行動の激しさを和らげたりすることが期待できます(参考:米国睡眠医学会GL 1)。症状が「コントロール」された状態を維持し、病気になる前と変わらない日常生活を送ることは、決して不可能ではありません。
早期発見と適切な介入がもたらす変化
「治らないなら、病院に行っても意味がないのでは」と考えるのは早計です。むしろ、早期に専門医に相談し、適切な介入を開始することには、計り知れないメリットがあります。
まず、夜間の異常行動による怪我のリスクを大幅に減らせます(参考:米国睡眠医学会GL 1)。また、この障害が他の神経変性疾患のサインである可能性も考慮し、長期的な視点での健康管理を始めるきっかけにもなります(参考:米国睡眠医学会GL 1)。
放置すれば、ご自身やご家族が危険にさらされ続けることになりかねません。早期の対応が、将来の安全と安心につながるのです。
レム睡眠行動障害の主要な治療アプローチ
治療は、大きく「薬物療法」と「非薬物療法」の二つの柱で進められます。多くの場合、これらを組み合わせて最適な治療計画が立てられます。
薬物療法:症状を和らげる効果的な選択肢
薬物療法は、異常行動を抑えるために非常に有効な手段です。ただし、現在推奨されている薬剤はいずれも条件付き推奨にとどまり、薬剤同士を直接比較した試験も行われていません(参考:米国睡眠医学会GL 1)。
クロナゼパム(ランドセン・リボトリール)の働きと副作用
レム睡眠行動障害の治療において、第一選択薬として広く用いられているのが「クロナゼパム」という薬です(参考:下畑ら 2017, 2)。1986年にこの病気が報告されて以来、最も多く処方されてきた薬でもあります(参考:米国睡眠医学会GL 1)。
この薬は、脳の活動を鎮める作用があり、夢に伴う激しい行動を和らげる効果が期待できます。ただし、睡眠ポリグラフ検査で見たときのレム睡眠中の筋緊張そのものは、わずかにしか低下しないことがわかっています(参考:米国睡眠医学会GL 1)。
多くの場合、少量から服用を開始し、効果と副作用のバランスを見ながら最適な量を調整していきます。就寝前0.25〜1.0mg程度から始めることが多く(参考:米国睡眠医学会GL 1)、国内の総説では0.5〜2mgという用量が示されています(参考:下畑ら 2017, 2)。
- 副作用としては、日中の眠気、ふらつき、めまいなどが報告されています。ほかに認知機能の低下や姿勢の不安定さも挙げられています(参考:米国睡眠医学会GL 1)
- 1mgの半減期は約27時間で、高齢の方では朝の眠気や日中の過眠、歩行障害・転倒が生じうるため、特に注意が必要です(参考:下畑ら 2017, 2)
- 睡眠時無呼吸症候群を悪化させることがあるため、服用開始前に合併の有無を確認します(参考:下畑ら 2017, 2)
- 医師の指示通りに服用し、自己判断で量を変更したり中断したりしないことが極めて重要です
メラトニンやその他の薬が使われる場合
クロナゼパムが副作用などの理由で使えない、あるいは効果が不十分な場合には、他の選択肢も検討されます。
- メラトニン:海外のガイドラインでは即放性メラトニンが条件付きで推奨されており、レム睡眠中の筋緊張を抑える働きなどが報告されています。鎮静作用は軽度とされる一方、日中の眠気、頭痛、思考のまとまりにくさ、吐き気などの報告もあります(参考:米国睡眠医学会GL 1)。ただし国内では、メラトニンをレム睡眠行動障害の治療薬として使用することはできないと報告されています(参考:下畑ら 2017, 2)。国内ではメラトニン受容体作動薬であるラメルテオンが有用だったとする報告があります(参考:角ら 2021, 5)
- 漢方薬(抑肝散など):神経の高ぶりを鎮める効果が期待され、用いられるケースもあります。夢に伴う行動に有用だったとする報告がある一方(参考:角ら 2021, 5)、米国睡眠医学会のガイドラインでは推奨を出すにはエビデンスが不十分と判断されています(参考:米国睡眠医学会GL 1)。逆に、抑肝散の服用に伴ってレム睡眠行動障害が生じたとする報告もあります(参考:下畑ら 2017, 2)
- その他:パーキンソン病の治療薬の一部(プラミペキソールなど)が有効な場合もあります。睡眠ポリグラフ検査で周期性四肢運動が多く見られる方で効きやすいと報告されていますが(参考:米国睡眠医学会GL 1)、国内では適応外使用にあたる点に注意が必要です(参考:下畑ら 2017, 2)
どの薬を選択するかは、患者さん一人ひとりの症状、年齢、他に抱える病気などを総合的に考慮して、専門医が判断します(参考:米国睡眠医学会GL 1)。
非薬物療法:生活習慣と環境を整える大切さ
薬物療法と並行して、あるいは症状が軽い場合には中心的に行われるのが、睡眠環境や生活習慣の見直しです。これは治療の基本であり、非常に重要な役割を果たします(参考:米国睡眠医学会GL 1)。
寝室の安全確保:具体的な工夫
最も優先すべきは、夜間の行動によって起こりうる事故を防ぐことです。以下のような具体的な工夫が有効とされています。
- ベッドの周りから、時計、眼鏡、スタンドライト、ガラス製品など、硬くて危険なものを遠ざける(参考:米国睡眠医学会GL 1)
- ベッドの高さを低くするか、思い切って床に布団を敷いて寝る。あわせてベッドの脇に柔らかいカーペットやマットを敷くと、転落時のけがを減らせます(参考:米国睡眠医学会GL 1)。ただし布団にする場合は、立ち上がりやすくなって歩き出すリスクが上がる点に注意が必要とされています(参考:下畑ら 2017, 2)
- ベッドの角や周囲の家具の角に、クッション材やコーナーガードを取り付ける(参考:米国睡眠医学会GL 1)
- 窓の鍵をしっかりかける、あるいは手の届きにくい場所に補助錠をつける(参考:米国睡眠医学会GL 1)。ベッド自体を窓から離すことも勧められています(参考:下畑ら 2017, 2)
- 可能であれば、ベッドパートナーとは一時的に別の寝室で休む。難しい場合は、少なくとも間に枕を置くことが勧められています(参考:米国睡眠医学会GL 1)
睡眠環境の改善と規則正しい生活リズム
質の良い睡眠を確保することは、症状の安定につながります。毎日同じ時間に起きて、同じ時間に寝ることを心がけ、体内時計を整えましょう。また、寝室は暗く、静かで、快適な温度に保つことが理想です。
ただし、これらの一般的な睡眠衛生がレム睡眠行動障害の症状そのものを軽くするかどうかについては、公的な医学文献上の根拠は乏しいのが現状です。
避けるべき習慣:飲酒や睡眠不足の影響
アルコール(特に寝酒)は、レム睡眠行動障害の症状を悪化させることが知られており、飲酒を控えるよう指導が行われます(参考:下畑ら 2017, 2)。飲酒量を減らすことは有効な対処のひとつとされています(参考:角ら 2021, 5)。
ただし、96名の患者さんを対象とした調査では、飲酒で症状が悪化すると答えた方は4分の1程度で、23の要因のうち12番目にとどまりました。影響は男性で目立ちましたが、この調査は飲酒習慣のある方が少なかったため、結論は限定的とされています(参考:Jun ら 2022, 6)。
睡眠不足については、悪化要因の候補として調べられているものの、上位の要因には挙がっておらず、公的な医学文献上、明確な根拠は確認できませんでした(参考:Jun ら 2022, 6)。
また、一部の抗うつ薬などが症状を悪化させる可能性も指摘されているため、服用中の薬がある場合は必ず医師に伝えてください。三環系抗うつ薬や選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が代表的で(参考:下畑ら 2017, 2)、薬剤によるレム睡眠行動障害では、原因となる薬の中止が条件付きで推奨されています(参考:米国睡眠医学会GL 1)。
日常生活で実践できる症状悪化防止策
専門的な治療と合わせて、日々の生活の中で意識できることもあります。
家族やパートナーの理解と協力が鍵
この病気は、ご本人以上にベッドパートナーが先に気づき、不安を感じることが多いものです。病気について正しく理解し、治療に協力してもらうことは、安全確保と本人の精神的な支えの両面で不可欠です(参考:下畑ら 2017, 2)。
危険な行動があった場合は、それを責めるのではなく、客観的な事実として記録し、受診時に医師に伝えるなどの協力が望まれます。夜間の異常行動がスマートフォンなどで記録されていれば、受診時に医師に見せると診療に役立ちます(参考:下畑ら 2017, 2)。
ご家族には、夜間の異常行動が本人の人格によるものではないことを理解していただくことが大切だとされています(参考:下畑ら 2017, 2)。
ストレスとの向き合い方:リラックス習慣の導入
過度なストレスは睡眠の質を低下させ、症状を悪化させる一因となる可能性があります。日中のストレスで症状が増悪しうるため、ストレスを避けるよう指導が行われます(参考:下畑ら 2017, 2)。ストレスへの対処は、有効な非薬物的アプローチのひとつとされています(参考:角ら 2021, 5)。
96名の患者さんを対象とした調査では、61%がストレスを最も大きな悪化要因として挙げ、次いで不安(56%)、怒り(51%)、疲労(49%)、就寝前のテレビ視聴(46%)が続きました(参考:Jun ら 2022, 6)。
ご自身に合ったストレス解消法を見つけることが大切です。就寝前にぬるめのお風呂にゆっくり浸かる、軽いストレッチをする、穏やかな音楽を聴く、読書をするなど、心身をリラックスさせる習慣を取り入れてみましょう。ただし、これらの習慣がレム睡眠行動障害の症状を直接軽くするかどうかを調べた公的な医学文献は確認できませんでした。
定期的な医療機関でのフォローアップの重要性
治療を開始した後も、定期的に専門医の診察を受けることは非常に重要です。薬の効果は十分か、副作用は出ていないか、症状に変化はないかなどを継続的に確認し、その時々の状態に合わせて治療法を調整していく必要があります(参考:米国睡眠医学会GL 1)。
加齢に伴う薬の代謝の変化などにより、必要な量が時間とともに減っていくことも想定されます(参考:米国睡眠医学会GL 1)。
症状が落ち着いたからといって、自己判断で通院や服薬をやめてしまうと、症状が再燃する恐れがあります。レム睡眠行動障害の経過は生涯にわたることが多く、年単位から数十年にわたる治療が必要になると考えられています(参考:米国睡眠医学会GL 1)。
レム睡眠行動障害と他の神経変性疾患との関連性
レム睡眠行動障害について調べる中で、パーキンソン病など他の病気との関連性に不安を感じる方も少なくありません。正しい知識を持つことが、過度な不安を和らげ、将来への備えにつながります。
パーキンソン病との深い関係性:早期発見のヒント
研究により、レム睡眠行動障害を発症した人の一部が、数年から十数年の経過を経て、パーキンソン病やレビー小体型認知症といった神経変性疾患を発症することが報告されています。このため、レム睡眠行動障害は、これらの病気の「前駆症状(病気の本格的な症状が現れる前のサイン)」である可能性が指摘されています(参考:下畑ら 2017, 2)。
その割合は決して小さくありません。24施設・1,280例を追跡した国際共同研究では、1年あたり6.3%が発症し、12年の追跡では73.5%が神経変性疾患を発症したと報告されています(参考:Postuma ら 2019, 3)。長期追跡研究をまとめた解析でも、初診から5年で33.5%、10.5年で82.4%、14年で96.6%という数字が示されています(参考:角ら 2021, 5)。
ただし、これはレム睡眠行動障害の患者さん全員が必ず将来これらの病気になる、という意味ではありません。
これらの数字は、いずれも睡眠専門施設を受診した患者さんを追跡したもので、対象となる集団に偏りがある点に注意が必要です(参考:Postuma ら 2019, 3)。
実際に、レム睡眠行動障害の診断後に生涯を通じて発症しない症例も存在すると報告されています。また、発症するとしても10年以上の時間を要する例が多いとされています(参考:下畑ら 2017, 2)。
レビー小体型認知症など、注意すべき疾患の知識
レム睡眠行動障害、パーキンソン病、レビー小体型認知症は、いずれも脳へのα-シヌクレインの異常な蓄積が関わる「シヌクレイノパチー」という共通の基盤を持つ疾患群と考えられています(参考:下畑ら 2017, 2)。この関連性を知っておくことは、ご自身の体の変化に早く気づくために役立ちます。
将来を見据えた健康管理の視点
関連疾患の可能性を知ることは、不安を煽るためではありません。むしろ、定期的に神経内科医の診察を受けることで、万が一、手足の震えや動きにくさ、物忘れなどの新たな兆候が現れた場合に、極めて早期の段階で発見し、適切な対応を開始できるという大きなメリットがあります(参考:米国睡眠医学会GL 1)。
将来を見据えた健康管理の一環として、前向きに捉えることが重要です。
一方で、将来の発症リスクを知ることが不安や抑うつにつながりうることも指摘されており、いつ・どのように伝えるかは症例ごとに検討すべき問題とされています(参考:米国睡眠医学会GL 1)。告知の後は、継続した診察とともに精神的な支援が必要とされています(参考:下畑ら 2017, 2)。不安が強いときは、抱え込まずに主治医へご相談ください。
専門医への相談:いつ、どこで受診すべきか
症状に心当たりがある場合、どこで、どのように相談すればよいのでしょうか。
受診を検討すべき症状のサイン
以下のようなサインが見られたら、一度専門医への相談を検討することをお勧めします。
- 眠っている間に大声で叫んだり、暴れたりすると家族から指摘された
- 夢の中の行動が原因で、ベッドから落ちたり、壁にぶつかったりして怪我をしたことがある
- 隣で寝ている家族に、怪我をさせそうになった、あるいはさせてしまった
- 朝起きると、身に覚えのないあざや傷があることがある
睡眠専門医や神経内科の選び方と相談のポイント
レム睡眠行動障害の診療は、主に「睡眠専門外来」や「神経内科」が担当します。精神科(神経精神科)で診療されることもあります(参考:角ら 2021, 5)。
近くに睡眠障害を専門とするクリニックや、大学病院などの睡眠センターがあれば、そちらが第一の選択肢となります。見つからない場合は、神経内科を受診して相談するのもよいでしょう。なお、どの診療科・施設を優先すべきかについて、公的な文献上の明確な指針は示されていません。
受診の際は、症状について具体的に伝えられるよう、事前にメモを準備しておくとスムーズです。「いつから」「どのような行動が」「どれくらいの頻度で」起こるのか、またベッドパートナーが見た状況などをまとめておきましょう(参考:下畑ら 2017, 2)。
初診から治療開始までの流れ
一般的な流れとして、まずは詳しい問診が行われます。その後、診断を確定するために終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)が計画されることが多いでしょう(参考:角ら 2021, 5)。
検査結果に基づき、レム睡眠行動障害と診断されれば、薬物療法や生活指導を含めた治療方針が決定され、治療が開始されます(参考:下畑ら 2017, 2)。
よくある質問と回答(FAQ)
最後に、レム睡眠行動障害に関してよく寄せられる質問にお答えします。
レム睡眠行動障害は子どもにも起こる?
成人に多い病気ですが、子どもでも発症するケースはまれに報告されています。ただし、子どもの場合、夢を見て怖がる「夜驚症」や「悪夢障害」など、他の睡眠障害との見分けが重要になるため、専門医による慎重な診断が必要です。
ノンレム睡眠に伴う睡眠時随伴症(錯乱性覚醒、睡眠時遊行症、睡眠時驚愕症)は幼児期から学童期の発症がほとんどで、夢見を伴わない複雑な運動である点、睡眠前半の深睡眠期に多い点、呼びかけで落ち着かない点がレム睡眠行動障害と異なります。悪夢障害は夢内容の行動化を認めないことで鑑別できます(参考:下畑ら 2017, 2)。
なお、小児のレム睡眠行動障害の治療については、推奨を示せるだけの十分な研究がまだありません(参考:米国睡眠医学会GL 1)。50歳未満で発症する場合は、薬剤に伴うものやナルコレプシーに伴うものが多いとされています(参考:米国睡眠医学会GL 1)。
薬は一生飲み続ける必要があるのか?
症状の経過や重症度によって異なります。症状が長期間安定している場合には、医師の慎重な判断のもとで薬の量を減らしたり、中断を試みたりすることもあります。
ただし、レム睡眠行動障害の自然経過は生涯にわたることが多く、年単位から数十年にわたって治療が必要になると想定されています(参考:米国睡眠医学会GL 1)。一方で、加齢に伴う代謝の変化などにより、必要な薬の量が時間とともに減っていくことはあります(参考:米国睡眠医学会GL 1)。
再発のリスクもあるため、自己判断での中断は絶対に避けるべきです。必ず主治医と相談しながら進める必要があります。
夢の内容は本当に現実の行動と連動する?
夢の内容と行動が結びつくことはよく知られていますが、常に連動するわけではありません。レム睡眠行動障害でみられる動きの大半は、数秒から数分おきに現れる小さなぴくつきや短い動きで、特定の夢の内容とは関係しないこともあると報告されています(参考:米国睡眠医学会GL 1)。
一方で、誰かや何かに追いかけられる、襲われる、戦うといった、攻撃的・暴力的な内容の夢を見ている際に、それに応じた行動が出やすいとされています。夢体験が非常に鮮明で、現実的であることも特徴の一つです。
目を覚まさせて確認すると、不快感や恐怖感を伴う悪夢が圧倒的に多い一方、楽しい夢のこともあると報告されています(参考:下畑ら 2017, 2)。
症状が悪化した場合、どう対応すればいい?
まずは、かかりつけの主治医に速やかに相談してください。薬の調整が必要な場合や、他に悪化させる要因(ストレス、他の薬剤など)が隠れている可能性があります。
患者さんを対象とした調査では、61%がストレスを最も大きな悪化要因として挙げています(参考:Jun ら 2022, 6)。なお、睡眠不足については、悪化要因としての明確な根拠は確認できませんでした。
原因を特定し、適切な対策を講じることが重要です。
まとめ
レム睡眠行動障害は、「完治」という言葉だけを見ると難しい病気かもしれません。しかし、適切な治療と生活改善によって、症状を「コントロール」し、安全で質の高い生活を送ることは可能です。
最も大切なのは、不安を一人で抱え込まず、できるだけ早く専門の医療機関に相談することです。それが、ご自身と大切なご家族の安全な毎日を守るための、最も確実な第一歩となります。この記事が、あなたの不安を和らげ、適切な一歩を踏み出すための助けとなれば幸いです。
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