夜にしっかり眠っているはずなのに、日中ひどい眠気で生活に支障が出る。 眠気が病的なレベルに達し、突然眠ってしまう…。
このような「眠すぎる」状態は、医学的に中枢性過眠症と呼ばれます。その代表がナルコレプシーです。 本記事では、過眠症の種類・症状・診断・治療について、睡眠医学の最新知見をもとに解説します。
過眠とは
「過眠(hypersomnia)」とは、医学的には以下のいずれかを指します。
- 日中の過剰な眠気(Excessive Daytime Sleepiness, EDS)
- 延長した夜間睡眠(10時間以上)
- 眠気発作(突然、抗いがたく眠ってしまう)
これらが慢性的に存在し、日常生活に支障を来している状態を「過眠症」と診断します(参考:日本睡眠学会 1)。
過眠症の眠気は「うっかり眠ってしまう」「眠気と闘うのが難しい」レベル。
慢性疲労症候群やうつ病の「疲労感」とは異なりますが、専門家の評価でも鑑別が難しい場合があります(参考:日本睡眠学会 1)。
過眠症の種類
過眠症は大きく以下のカテゴリーに分けられます。
中枢性過眠症(病気としての過眠)
- ナルコレプシー1型:オレキシン欠乏型
- ナルコレプシー2型:オレキシン保持型
- 特発性過眠症:原因不明の慢性過眠
- クライネ・レビン症候群:周期的に長期間眠り続ける
二次性過眠(他の原因による)
- 睡眠時無呼吸症候群(SAS)
- 慢性的な睡眠不足(睡眠負債)
- うつ病・双極性障害(非定型・季節性)
- 薬剤による眠気
- 内分泌疾患(甲状腺機能低下症など)
- 神経変性疾患
中枢性過眠症は人口の0.02〜0.1%(数千〜1万人に1人)と頻度は低いものの、生活への影響は大きい疾患です(なお、日本のナルコレプシー有病率は0.16〜0.18%と国際的に高い部類で報告されており、国内では上記より高い可能性があります)(参考:日本睡眠学会 1)。
ナルコレプシー1型
ナルコレプシー1型は、最も典型的な過眠症で、4つの特徴的な症状(ナルコレプシーの4徴候)を持ちます。
① 日中の過剰な眠気(EDS)
毎日のように、抗いがたい眠気が襲ってくる。会議中、食事中、運転中など、不適切な場面で眠ってしまうことも。短い昼寝(15〜20分)で一時的に頭がスッキリするのが特徴。
② 情動脱力発作(カタプレキシー)
笑う、驚く、怒るなど強い感情をきっかけに、突然全身または身体の一部の筋力が抜ける発作。顔がこわばる、膝の力が抜ける、ろれつが回らないなど。意識は保たれる。ナルコレプシー1型に特異的な症状。
③ 睡眠麻痺(金縛り)
入眠時または覚醒時に、意識はあるが身体が動かせない状態。レム睡眠中の筋抑制が、覚醒の境界で誤って続いている。健康な人でも一過性に経験するが、ナルコレプシーでは頻発。
④ 入眠時幻覚
眠りに落ちる際、または目覚める際に、鮮明な視覚的・聴覚的・触覚的幻覚を体験。「誰かが部屋にいる」「身体に触られる」など、しばしば恐怖を伴う。
これら4つすべてが揃うのは約25%。①の日中眠気と②の情動脱力発作が揃えばナルコレプシー1型が強く疑われますが、確定診断には後述のMSLTまたは髄液オレキシン測定による客観的な確認が必要です(参考:日本睡眠学会 1)(参考:睡眠障害国際分類第3版 2)。
オレキシン神経系の破壊
ナルコレプシー1型では、視床下部のオレキシン(ヒポクレチン)産生神経細胞が選択的に消失していることが分かっています。
オレキシンは覚醒の維持に必須の神経ペプチド。これが失われることで、覚醒状態を安定して保てなくなり、日中に突然眠ってしまったり、レム睡眠の制御が乱れたりします(参考:Sakurai ら 1998, 3)。
自己免疫機序(オレキシン神経細胞への自己免疫攻撃)が背景にあると考えられ、HLA-DQB1*06:02という遺伝子型との強い関連が知られています(参考:睡眠障害国際分類第3版 2)。
ナルコレプシー2型・特発性過眠症
ナルコレプシー2型
ナルコレプシー1型と似た日中眠気・睡眠麻痺・入眠時幻覚はあるが、情動脱力発作がないタイプ。オレキシンレベルは正常範囲。診断・治療方針はナルコレプシー1型に準じますが、症状の重さは様々です。
特発性過眠症
- 一日中続く強い眠気
- 長時間睡眠(11時間以上)
- 起床困難(睡眠酩酊:起きてもぼんやりした状態が長く続く)
- 昼寝で回復しない(ナルコレプシーとの違い)
- 情動脱力発作はない
- 原因不明
診断には他の過眠症や精神疾患の除外が必須。治療はナルコレプシーに準じますが、効果が出にくいケースも(参考:睡眠障害国際分類第3版 2)。
診断 — MSLTとオレキシン検査
終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)
まず、夜間の睡眠を詳細に記録。睡眠時無呼吸など他の睡眠障害を除外するためにも必須。
反復睡眠潜時検査(MSLT)
過眠症の確定診断に最も重要な検査。
- PSGの翌日、2時間おきに4〜5回、20分間の昼寝を試みる
- 各昼寝で「眠りに落ちるまでの時間(睡眠潜時)」を測定
- 平均睡眠潜時が8分以下かつ、2回以上のSOREMP(Sleep Onset REM Period:入眠後すぐにレム睡眠が出現)でナルコレプシー診断
髄液オレキシン測定
ナルコレプシー1型の確定診断。腰椎穿刺で髄液を採取し、オレキシンA濃度を測定。 110 pg/mL以下または基準値の1/3以下でナルコレプシー1型と確定(参考:睡眠障害国際分類第3版 2)。
治療
ナルコレプシーは現在のところ完治させる治療はないが、症状をコントロールして生活の質を維持することは可能です。
薬物療法
覚醒促進薬
モダフィニル(国内の第一選択)、メチルフェニデート(登録された医師のみ処方可)など。日中の眠気を軽減。1日1〜2回服用。覚醒系の神経伝達を増強。なお海外で用いられるアルモダフィニルは、日本では未承認です。
抗うつ薬
SSRI、SNRI、三環系抗うつ薬など。情動脱力発作・睡眠麻痺・入眠時幻覚に有効。レム睡眠を抑制する作用を活用。
ナトリウムオキシベート
欧米で使用される夜間服薬の薬。情動脱力発作と日中眠気の両方に有効。日本では未承認だが、特定の医療機関で限定的に使用。
ピトリザント
ヒスタミンH3受容体逆作動薬。新しい覚醒促進薬で、依存リスクが低い。海外で使用が進む(日本では未承認)(参考:日本睡眠学会 1)。
非薬物療法
- 計画的短時間昼寝:1日2〜3回、15〜20分の昼寝で眠気を予防
- 規則正しい睡眠:毎日同じ時刻に就寝・起床
- 眠気を起こすトリガー回避:暖かい部屋、退屈な状況、満腹後など
- 危険な作業の制限:運転、機械操作などは状態に応じて
- ストレス管理:情動脱力発作のトリガーになる強い感情を減らす(参考:日本睡眠学会 1)
社会生活との両立
ナルコレプシーは慢性疾患であり、適切な治療と環境調整で多くの方が社会生活を続けられます。
学校・職場での配慮
- 短い昼寝が取れる場所・時間の確保
- 朝の授業・会議の調整
- 長時間運転業務の見直し
- 上司・教員・同僚への適切な情報共有
運転免許
日本では、適切に治療されていれば運転は可能ですが、医師の診断書が必要な場合があります。 情動脱力発作の頻度・治療効果に応じて、個別判断。
法的支援
- 障害者手帳の申請対象になる場合あり
- 障害年金の対象になることも
- 難病ではないが、生活への支障が大きい場合は社会福祉支援を検討(対象となるかは個別判断です)(参考:日本睡眠学会 1)
日中に突然眠ってしまうのは病気の症状であり、本人の意志ではコントロールできません。
家族・職場・学校の理解と協力が、患者さんの生活の質を大きく左右します。
受診の目安
以下に該当する場合、専門医(睡眠外来・精神科・神経内科)への相談を検討してください。
- 毎日、強い日中眠気がある
- 不適切な場面で眠ってしまう(運転中、会議中など)
- 笑い・驚きなど感情の動きで突然力が抜けることがある
- 金縛り(睡眠麻痺)を頻繁に経験する
- 夢のような幻覚を入眠時・覚醒時に見る
- 夜の睡眠時間は十分なのに眠気が続く
- うつ病・SASを除外しても眠気が改善しない
まとめ
- 過眠症は「眠すぎる病気」、ナルコレプシーが代表
- ナルコレプシー1型はオレキシン神経の自己免疫的破壊が原因
- 4つの特徴:日中眠気・情動脱力発作・睡眠麻痺・入眠時幻覚
- 診断にはPSG・MSLT・髄液オレキシン測定
- 完治は難しいが、薬物療法+計画的昼寝で生活可能
- 「眠気」と「疲労」「うつ」は区別が重要
次回(第12回・最終回)は、睡眠とメンタルヘルスの双方向の関係について、うつ病・不安障害・双極性障害との関連を解説します。
関連リソース
参考資料・文献一覧
- 日本睡眠学会(編). 『ナルコレプシーの診断・治療ガイドライン』https://jssr.jp/files/guideline/narcolepsy.pdf
- 米国睡眠医学会(American Academy of Sleep Medicine). 『睡眠障害国際分類 第3版(ICSD-3)』2014.(日本語版:日本睡眠学会診断分類委員会訳. ライフ・サイエンス; 2018) ※ナルコレプシー1型/2型の診断基準(MSLT・髄液オレキシン・HLA)の出典
- Sakurai T, Amemiya A, Ishii M, et al. Orexins and orexin receptors: a family of hypothalamic neuropeptides and G protein-coupled receptors that regulate feeding behavior. Cell. 1998; 92(4): 573-585. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9491897/