加藤 隆郎
記事の医学監修
久留米大学 医学部 神経精神医学講座 助教 加藤 隆郎 先生
監修範囲:双極性障害に関する医学的記述  /  最終監修日:2026.02.18
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「双極性障害は一生治らない」という言葉を目にして、将来に大きな不安を感じていませんか。

一度診断されると、この先ずっと気分の波に苦しみ続けるしかないのだろうか。そんな絶望的な気持ちになっているかもしれません。

しかし、その認識は必ずしも正しくありません。この記事では、「一生治らない」という言葉の真意を解き明かし、双極性障害との正しい付き合い方について、最新の医学的知見に基づき詳しく解説します。

この記事を読み終える頃には、双極性障害に対する誤解が解け、不安が和らぎ、希望を持って治療に取り組むための一歩を踏み出せるはずです。

この記事の要点
  • 双極性障害は「一生症状に苦しむ病気」ではなく、適切な治療で症状をコントロールできる「寛解」を目指せる病気です。
  • 「一生治らない」というイメージは、再発リスクの高さや「完治」の定義の難しさから生まれています。
  • 治療の目標は「寛解」と「再発予防」であり、薬物療法・精神療法・セルフケアが治療の柱となります。
  • 自己判断での服薬中断は再発のリスクを非常に高めるため、医師の指示通りに治療を継続することが重要です。
  • 大切なのは「治す」ことに固執せず、病気と「上手く付き合っていく」という視点を持ち、希望を失わずに治療を続けることです。

「一生治らない」と言われる理由と、その真実

なぜ双極性障害は「一生治らない」と言われてしまうのでしょうか。まずはその背景にある理由と、医学的な真実について見ていきましょう。

なぜ「一生治らない」というイメージが先行するのか?

双極性障害に「一生治らない」というイメージがつきまとうのには、いくつかの理由があります。

一つは、再発リスクの高さです。双極性障害は、症状が落ち着いた「寛解期」を迎えても、何らかのきっかけで再発することが少なくない病気です。

そのため、長期にわたる治療と自己管理が必要となり、これが「一生付き合う病気」というイメージにつながっています。

補足

「完治」という言葉の定義

「完治」という言葉の定義も関係しています。風邪のようにウイルスが体内から完全にいなくなる状態を「完治」と呼ぶなら、双極性障害は体質的な要素も関わるため、その意味での「完治」は現代医学では難しいとされています。

さらに、インターネット上の不正確な情報や、病気に対する社会的な偏見が、「治らない難しい病気」というイメージを固定化させている側面も否定できません。

双極性障害は「一生治らない」ものではない:希望を抱ける理由

しかし、これらの理由をもって「一生治らない=絶望」と考えるのは早計です。双極性障害は「一生、症状に苦しみ続ける病気」では決してありません。

近年の治療法の進歩は目覚ましく、薬物療法や精神療法を組み合わせることで、多くの人が症状をコントロールできるようになっています。

POINT

「寛解(かんかい)」という考え方

ここで重要なのが「寛解(かんかい)」という概念です。寛解とは、治療によって躁状態やうつ状態といった症状が消失し、安定した状態で日常生活を送れるようになることを指します。

病気の根本的な原因がなくなったわけではありませんが、仕事や学業、趣味など、自分らしい生活を取り戻すことが十分に可能なのです。

双極性障害の治療目標は、この「寛解」の状態をできるだけ長く維持することにあります。そして、早期に診断を受け、適切な治療を開始することが、寛解への最も確実な道筋となります。

双極性障害の正しい理解:症状、原因、そして治療の目標

希望を持って治療に臨むためには、まず病気そのものを正しく理解することが不可欠です。

双極性障害とは? 躁状態とうつ状態の波

定義

双極性障害とは

双極性障害は、気分が高揚して活動的になる「躁状態」と、気分が落ち込んで無気力になる「うつ状態」を繰り返す脳の病気です。これらは単なる気分の浮き沈みではなく、日常生活に大きな支障をきたすほどの極端な状態です。

躁状態の特徴:

  • 気分が異常に高揚し、誰にでも話しかける
  • ほとんど眠らなくても平気で活動し続ける
  • 次々とアイデアが浮かぶが、まとまりがない
  • 根拠のない自信に満ちあふれる
  • 浪費や危険な行動など、後で後悔するようなことをしてしまう

うつ状態の特徴:

  • 一日中気分が落ち込み、何をしても楽しめない
  • 眠れない、または寝すぎてしまう
  • 食欲がない、または食べ過ぎてしまう
  • 疲れやすく、何もする気になれない
  • 自分を責め、死にたいと考えることもある

このような両極端な気分の波は、本人の意思ではコントロールできず、人間関係や社会的信用を損なう原因にもなり得ます。

つらいときは

うつ状態のときに「死にたい」という気持ちが強くなることがありますが、これは病気がそう思わせているもので、本当の願いではありません。死にたいという気持ちがわいたら、一人で悩まずに、医師や家族に話すようにしましょう(参考:厚生労働省 2)。

双極性障害の原因:多因子が絡み合う複雑な病

双極性障害のはっきりとした原因はまだ完全には解明されていませんが、単一の原因ではなく、複数の要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。

  • 遺伝的要因:家族に双極性障害の方がいる場合、発症リスクがやや高まることが知られています。ただし、必ず遺伝するわけではありません(参考:McGuffin ら 2003, 3)。
  • 脳機能の偏り:気分の調節に関わる脳内の神経伝達物質(セロトニン、ドーパミンなど)のバランスの乱れが関係していると考えられています(参考:日本うつ病学会GL 1)。
  • 環境要因:過度なストレス、不規則な生活、幼少期のつらい体験などが、発症の引き金になることがあります。

重要なのは、「原因不明の怖い病気」ではなく、これらの「複合的要因」によって起こる、脳機能の不調であると理解することです。

治療の目標は「寛解」と「再発予防」

前述の通り、双極性障害の治療における現実的な目標は「完治」ではなく、「寛解」と「再発予防」です。具体的には、以下の3つを目指します。

01

症状のコントロールと、日常生活への復帰

薬物療法や精神療法によって気分の波を安定させ、まずは穏やかな日常生活を取り戻します。

02

再発の頻度を減らし、その期間を短くすること

再発は避けられないこともありますが、治療を続けることで再発の回数を減らし、もし再発しても症状を軽く、短期間で抑えることを目指します。

03

患者さん自身が病気と上手く付き合っていくためのスキル習得

病気の性質を理解し、再発のサインに気づき、セルフケアを実践するスキルを身につけることも、治療の重要な一部です。

双極性障害との向き合い方:治療法とセルフケア

では、具体的にどのように病気と向き合っていけば良いのでしょうか。治療の柱となる方法と、ご自身でできるセルフケアについて解説します。

治療の柱:薬物療法と精神療法

双極性障害の治療は、主に「薬物療法」と「精神療法」を組み合わせて行われます。

薬物療法の中心となるのは、気分の波を抑える「気分安定薬」です。その他、激しい躁状態を鎮めるための「抗精神病薬」や、うつ状態に対して慎重に「抗うつ薬」が使われることもあります。これらの薬は、脳内の神経伝達物質のバランスを整える働きがあります。

注意

自己判断で服薬を中断すると再発のリスクが非常に高まるため、医師の指示通りに継続することが何よりも重要です(参考:日本うつ病学会GL 1)。

精神療法では、病気についての正しい知識を学ぶ「心理教育」が基本となります。その他、考え方の癖を修正する「認知行動療法(CBT)」や、対人関係のストレスを軽減する「対人関係療法(IPT)」などが、症状の安定や再発予防に効果的です(参考:Colom ら 2003, 4)(参考:Bond ら 2015, 5)。

治療は長期にわたるため、何でも相談できる信頼できる医師を見つけ、二人三脚で治療を進めていくことが大切です。

再発を防ぐための生活習慣とセルフケア

薬による治療と並行して、日々の生活の中で自分自身でできることもたくさんあります。これらは再発を防ぎ、寛解期を長く保つための土台となります。

  • 規則正しい生活リズムの確立:毎日同じ時間に起き、同じ時間に寝ることを心がけましょう。睡眠不足や昼夜逆転は、気分の波を不安定にする大きな要因です。食事も決まった時間に摂るようにしましょう(参考:厚生労働省 2)。
  • ストレスマネジメント:自分にとって何がストレスになるのかを把握し、それを上手に避ける、あるいは解消する方法を見つけることが重要です。散歩や音楽鑑賞、趣味の時間など、自分がリラックスできる活動を日常に取り入れましょう。
  • トリガー(再発の引き金)の特定と回避策:自分の気分の波を記録してみると、どのような時に調子を崩しやすいか(トリガー)が見えてくることがあります。例えば、「徹夜」「飲酒」「対人関係のトラブル」などです。自分のトリガーを理解し、それを避ける工夫をしましょう。
  • 病気に関する知識を深め、自己理解を深めること:自分の病気について学ぶことは、治療への主体的な参加を促し、不安を軽減します。再発の初期サイン(いつもより眠れない、おしゃべりになるなど)に自分で気づけるようになれば、早期に対処し、大きな波を防ぐことができます。

周囲のサポートの重要性:家族や友人、支援機関

双極性障害は、一人で抱え込まずに周囲のサポートを得ることが非常に重要です。

まずは、信頼できる家族や友人に病気について話し、理解と協力を求めましょう。どのような時に調子が悪くなりやすいか、調子が悪い時にはどうしてほしいかを具体的に伝えておくと、いざという時に助けになります。

補足

公的な支援機関を活用することも有効です。各都道府県や市町村にある精神保健福祉センターでは、専門家による相談が受けられます。

同じ病気を抱える人たちが集まる自助グループに参加し、体験を分かち合うことも、孤立感を和らげ、回復への力となるでしょう。

双極性障害と「一生」:長期的な視点での希望

最後に、「一生」という長いスパンでこの病気とどう向き合っていくか、希望の持てる視点についてお話しします。

障害年金と「一生治らない」記載の関連性

障害年金の申請を検討する際、診断書に「予後(治癒の見込み)」について記載する欄があります。ここで「治癒の見込みなし」と書かれることがあり、「一生治らないと断言された」とショックを受ける方がいます。

POINT

しかし、これはあくまで年金制度上の表現であり、医学的に「一生症状が続く」という意味ではありません。双極性障害が体質的な要素を含む慢性疾患であることから、制度上はそのように記載されることがある、というだけです。

この言葉に過度に落ち込まず、社会的なサポートを受けるための一つの手続きと捉えましょう(参考:日本年金機構 6)。

双極性障害と共に歩む未来:諦めないことの大切さ

双極性障害と診断されたからといって、人生を諦める必要は全くありません。大切なのは、「治らない」と絶望するのではなく、「上手く付き合っていく」という視点に切り替えることです。

高血圧や糖尿病といった他の慢性疾患を持つ人が、服薬や生活習慣の改善で病気をコントロールしながら生活しているのと同じです。双極性障害も、適切な治療とセルフケアを続けることで、気分の波を穏やかにし、寛解期を長く保つことができます。

寛解期には、多くの人が病気になる前と同じように、あるいは病気を経験したからこそ得られた視点を持って、仕事や家庭、趣味を楽しみ、充実した人生を送っています。

希望を失わず、粘り強く治療を続けること。それが、双極性障害と共に自分らしい未来を築いていくための最も大切な鍵となります。

まとめ

この記事では、「双極性障害は一生治らない」という言葉の裏にある真実と、病気との正しい付き合い方について解説しました。

  • 双極性障害は「一生症状に苦しむ病気」ではなく、適切な治療で症状をコントロールできる「寛解」を目指せる病気です。
  • 「一生治らない」というイメージは、再発リスクの高さや「完治」の定義の難しさから来ていますが、絶望する必要はありません。
  • 治療の目標は「寛解」と「再発予防」であり、薬物療法、精神療法、そしてセルフケアがその柱となります。
  • 大切なのは「治す」ことだけに固執するのではなく、病気と「上手く付き合っていく」という視点を持ち、希望を失わずに治療を続けることです。

もしあなたが今、診断を受けて途方に暮れているのなら、まずは信頼できる医師に相談し、正しい情報に基づいて一歩ずつ治療を進めていきましょう。あなたの未来は、決して閉ざされてはいません。

よくある質問

双極性障害は本当に完治するのでしょうか?

ウイルス性の病気のように原因が完全になくなるという意味での「完治」は、現代医学では難しいとされています。

しかし、治療によって症状がほとんどない「寛解」という状態に至り、それを長く維持することは十分に可能です。多くの人が寛解状態で、自分らしい社会生活を送っています(参考:日本うつ病学会GL 1)。

双極性障害の治療はどのくらい続きますか?

双極性障害は再発しやすい性質があるため、症状が安定している寛解期でも、再発予防のために薬物療法を長期間続けることが一般的です。

治療期間は個人の状態によって大きく異なりますが、自己判断で治療を中断せず、必ず主治医と相談しながら進めることが重要です。

双極性障害の再発の兆候にはどのようなものがありますか?

再発の兆候は人それぞれですが、多く見られるのは「睡眠の変化」です。躁状態の前には睡眠時間が短くても平気になり、うつ状態の前には過眠になることがあります。

その他、気分の高揚、多弁、焦燥感、逆に気力の低下、興味の喪失などが初期サインとして現れることがあります。普段から自分の心身の状態を観察し、変化に早く気づくことが大切です。

双極性障害と診断されたら、仕事や生活はどうなりますか?

診断直後や症状が不安定な時期は、休養が必要になることもあります。しかし、適切な治療を受けて症状が安定すれば、多くの人が仕事や学業に復帰し、継続しています。

病気の特性を理解し、ストレスを溜めすぎない、無理のない働き方を選択するなど、自分に合ったペースを見つけることが大切です。必要であれば、職場に病気のことを説明し、配慮を求めることも選択肢の一つです。

双極性障害の人は寿命が短いと聞きましたが、本当ですか?

双極性障害自体が直接的に寿命を縮めるわけではありません。しかし、研究によっては、双極性障害を持つ人は、そうでない人に比べて平均余命が短い傾向にあるという報告もあります。

その理由としては、生活習慣の乱れからくる身体疾患(糖尿病、心血管疾患など)の合併リスクや、自殺のリスクなどが指摘されています。適切な治療を受け、生活習慣を整え、心身の健康を総合的に管理していくことが非常に重要です(参考:Chan ら 2022, 7)。

参考資料・文献一覧
  1. 日本うつ病学会『日本うつ病学会診療ガイドライン 双極性障害(双極症)2023』2023 https://www.secretariat.ne.jp/jsmd/iinkai/katsudou/data/guideline_sokyoku2023.pdf
  2. 厚生労働省「みんなのメンタルヘルス 躁うつ病(双極性障害)」https://kokoro.ncnp.go.jp/disease.php?@uid=RM3UirqngPV6bFW0
  3. McGuffin P, Rijsdijk F, Andrew M, Sham P, Katz R, Cardno A. The heritability of bipolar affective disorder and the genetic relationship to unipolar depression. Arch Gen Psychiatry. 2003; 60(5): 497-502. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12742871/
  4. Colom F, Vieta E, Martinez-Aran A, et al. A randomized trial on the efficacy of group psychoeducation in the prophylaxis of recurrences in bipolar patients whose disease is in remission. Arch Gen Psychiatry. 2003; 60(4): 402-407. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12695318/
  5. Bond K, Anderson IM. Psychoeducation for relapse prevention in bipolar disorder: a systematic review of efficacy in randomized controlled trials. Bipolar Disord. 2015; 17(4): 349-362. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25594775/
  6. 日本年金機構「障害年金の診断書(精神の障害用)」 https://www.nenkin.go.jp/shinsei/jukyu/shougai/shindansho/20140421-23.html
  7. Chan JKN, Tong CHY, Wong CSM, Chen EYH, Chang WC. Life expectancy and years of potential life lost in bipolar disorder: systematic review and meta-analysis. Br J Psychiatry. 2022; 221(3): 567-576. https://doi.org/10.1192/bjp.2022.19

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