「睡眠中に突然叫び声をあげる」「無意識に歩き回ってしまう」。ご自身やご家族にこのような経験があり、不安を感じている方もいるかもしれません。もしかするとそれは「睡眠時随伴症(すいみんじずいはんしょう)」と呼ばれる状態の一症状である可能性があります。
睡眠時随伴症は、睡眠中に起こる望ましくない行動や体験の総称であり、決して珍しいものではありません。多くは一過性ですが、中には注意が必要なケースも存在します。たとえば夢遊病は、生涯で6.9%の人が経験すると報告されています※1。
この記事では、睡眠時随伴症の正確な定義から、主要な分類であるNREM型・REM型の違い、具体的な症状例、そして「どのような場合に受診すべきか」「どこに相談すれば良いか」といった具体的な疑問まで、全体像を網羅的に解説します。ご自身の状態を正しく理解し、適切な対応を考えるための一助となれば幸いです。
- 睡眠時随伴症は、睡眠中や寝入りばな・目覚め際に起こる望ましくない行動や体験の総称です。
- 大きく、ノンレム睡眠に関連する型(睡眠時遊行症・睡眠時驚愕症など)と、レム睡眠に関連する型(レム睡眠行動障害・悪夢障害など)に分けられます。
- 睡眠時ブラキシズム(歯ぎしり)や入眠時ひきつり(ジャーキング)は、分類上は睡眠時随伴症ではなく睡眠関連運動障害にあたります。
- 本人や同床者に怪我の危険がある場合、日中の生活に支障が出ている場合は受診の目安です。
- 中高年以降に発症したレム睡眠行動障害は、神経変性疾患の前触れである可能性があり、定期的な経過観察が重要です。
睡眠時随伴症の基礎知識:定義と全体像
睡眠時随伴症(パラソムニア)とはどんな状態?
「睡眠時随伴症(パラソムニア)」とは
睡眠時随伴症とは、専門的には「パラソムニア(Parasomnia)」と呼ばれ、睡眠の特定の段階(寝入りばな、睡眠中、目覚め際)に生じる、好ましくない身体的な行動や体験全般を指す言葉です※2。
国際的な診断分類である睡眠障害国際分類(ICSD)の現行版は、2023年に刊行された第3版テキスト改訂版(ICSD-3-TR)です※3。
単なる「寝相が悪い」「寝言が多い」といったレベルにとどまらず、複雑な行動を伴ったり、本人や周囲の人に危険が及んだりする可能性がある場合に、医学的な介入が検討されます。診断上も、本人や同床者に危険が及ぶこと、あるいは苦痛や日中の機能障害があることが要件とされています※2。
睡眠そのものの異常ではなく、睡眠に付随して起こる現象である点が特徴です。睡眠障害国際分類では、睡眠と覚醒の移行期または睡眠中に起こる望ましくない現象と定義されています※2。
なぜ睡眠中に異常行動が起こるのか?主な原因とメカニズムの概略
睡眠中の異常行動は、脳の「睡眠」を司る部分と「覚醒」を司る部分の切り替えがうまくいかないことで発生すると考えられています※4。
通常、深いノンレム睡眠では脳の活動が低下し、レム睡眠では全身の筋肉の緊張が消失します※5※2。しかし、何らかの要因でこのバランスが崩れ、脳の一部は眠っているのに体は動いてしまう、といった「解離状態」に陥ることがあります※4。
このような状態を引き起こす要因は多様です。脳の発達が未熟な小児期に起こりやすいほか、成人では強いストレス、過度の疲労、睡眠不足、他の睡眠障害(睡眠時無呼吸症候群など)、あるいは特定の薬剤の影響などが関連しているとされています※6※4。
なお、薬剤や物質の影響であることが確認されている場合は、睡眠障害国際分類上「薬物または物質による睡眠時随伴症」として別に分類されます※2※7。
睡眠時随伴症は誰にでも起こり得る?小児と成人の発症傾向
睡眠時随伴症は、特定の年齢層に限られたものではなく、誰にでも起こり得る現象です。ただし頻度には差があり、夢遊病を生涯のうちに経験する人の割合は6.9%と報告され、その95%信頼区間(推定値が収まるとみられる範囲)は4.6〜10.3%です。過去1年間の経験率は小児で5.0%、成人で1.5%とされています※1。
ただし、発症の傾向には年齢による違いが見られます。後述する夜驚症や夢遊病などは、脳の発達段階にある小児期に多く見られ、成長とともに自然に軽快・消失するケースが少なくありません※8※9。
一方で、成人期や高齢期に初めて発症したり、症状が続いたりする場合もあります。特に成人以降に現れる症状の中には、他の疾患のサインである可能性も含まれるため、より慎重な評価が必要になることがあります。
NREM型とREM型:睡眠時随伴症の主要な分類と特徴
睡眠は、浅い段階(N1・N2)と深い段階(N3)からなるノンレム睡眠と、夢を見ることが多いレム睡眠が周期的に繰り返されています※5。睡眠時随伴症は、どちらの睡眠段階で起こるかによって大きく二つのタイプに分類され、それぞれ症状の現れ方が異なります。
ノンレム睡眠時随伴症(NREM型)の代表的な例
ノンレム睡眠は、睡眠全体の約80%を占める段階です※10。このうち深い段階(N3・徐波睡眠)で起こる随伴症は、本人の意識がはっきりしておらず、行動を覚えていないことが多いのが特徴です※11※2。脳は眠っているのに、体だけが部分的に覚醒して動いてしまうイメージです※4。
夢遊病(睡眠時遊行症)とは?
眠ったまま起き上がり、歩き回ったり、時には食事や着替えといった複雑な行動をとったりします※2※9。本人は無表情で、話しかけても反応が鈍いことが多く、無理に起こそうとすると混乱したり、抵抗したりすることもあります。
覚醒させようとすると混乱や攻撃的な反応を招くことがあるため、無理に起こさず、安全を確保して見守るのが基本です※4※9。
翌朝、本人はその間の出来事を、ほとんど、あるいは全く覚えていないことが多いとされます※2。
夜驚症(睡眠時驚愕症)の典型的な現れ方
睡眠中に突然、恐怖に満ちた叫び声をあげて起き上がります。心拍数の増加、発汗、呼吸の乱れといった強い自律神経症状を伴いますが、本人はパニック状態で周囲を認識できていません※2。
数分で再び眠りに戻り、翌朝には記憶がないことがほとんどです。多くは徐波睡眠が多い夜間睡眠の最初の3分の1から2分の1に現れます※6※2。
睡眠時ブラキシズム(歯ぎしり)の特徴
睡眠中に無意識のうちに歯をギリギリとこすり合わせたり、強く食いしばったりする状態です※12。歯や顎への負担が大きく、歯の摩耗や顎関節症の原因となることがあります※12。
入眠時ひきつり(ジャーキング)と睡眠関連摂食障害
入眠時に体が「ビクッ」と大きくけいれんする現象を入眠時ひきつり(ジャーキング)と呼び、多くの人が経験する生理的な現象です※13。
また、睡眠中に無意識に起き出して、高カロリーのものを大量に飲食してしまう睡眠関連摂食障害という状態もあります※14※9。これはノンレム睡眠に関連する睡眠時随伴症に分類される稀な疾患で、半覚醒の状態で起こります※14※6。
寝言(睡眠時発語)のメカニズム
はっきりとした言葉から、意味不明なうなり声まで、睡眠中に声を発する状態が寝言です※15※9。多くは問題になりませんが、大声で叫ぶなど激しい場合は注意が必要です。
- 睡眠時ブラキシズム(歯ぎしり)は、睡眠障害国際分類ではノンレム睡眠時随伴症ではなく睡眠関連運動障害に分類されます※2※12。
- 入眠時ひきつり(ジャーキング)も睡眠時随伴症ではなく、睡眠関連運動障害の孤発症状・正常範囲の異型として扱われます※13。
- 寝言(睡眠時発語)は、睡眠障害国際分類第3版では疾患ではなく、正常範囲の異型または孤発症状と位置づけられています※15。
- 睡眠時遺尿症(夜尿症)はノンレム睡眠時随伴症ではなく、「その他の睡眠時随伴症」に分類されます※15。
歯ぎしりそのものへの具体的な対処については、睡眠時ブラキシズム(歯ぎしり)の治し方をまとめた記事で詳しくまとめています。
レム睡眠時随伴症(REM型)の代表的な例
レム睡眠は、体が休息している一方で脳が活発に活動し、夢を見る段階です※10。通常、レム睡眠中は夢の通りに行動しないよう、全身の筋肉の力が抜ける「筋弛緩」という仕組みが働きます※2。
レム睡眠中の筋緊張消失(アトニア)
レム睡眠中に働く筋緊張の消失がうまく機能しない場合に起こるのが、レム睡眠行動障害です※2※16。
一方、悪夢障害はこの仕組みの破綻によるものではありません。睡眠麻痺は逆に、レム睡眠中の筋緊張消失が覚醒後も一時的に続くことで生じます※17。
レム睡眠行動障害(RBD)の危険性
夢の内容に反応して、体を動かしてしまうのが特徴です※16。例えば、追いかけられる夢を見て走り出そうとしたり、誰かと争う夢を見て殴る・蹴るといった暴力的な行動をとったりします※9。
夢の内容がそのまま行動に出るため、本人や隣で寝ている人が怪我をする危険性があります※18。
悪夢(ナイトメア)と悪夢障害
鮮明で非常に恐ろしい内容の夢を見ることです※2。目が覚めた後も夢の内容をはっきりと覚えており、恐怖や不安が残ります※9。
これが頻繁に繰り返され、眠ることへの恐怖や日中の活動に支障をきたすようになると「悪夢障害」という診断がつく場合があります※17。
睡眠麻痺(金縛り)の症状
意識ははっきりしているのに、体を動かすことができない状態です※2。目が覚める直前や寝入りばなに起こりやすく、息苦しさや、誰かがいるような幻覚を伴うこともあります※17。
これもレム睡眠中の筋弛緩のメカニズムが、覚醒後も一時的に続いてしまうことで生じます※17。
NREM型とREM型、それぞれの違いを比較表で理解する
これら二つのタイプは、症状だけでなく多くの点で対照的です。ご自身やご家族の症状がどちらに近いかを確認することで、状態の理解が深まります。
| 項目 | ノンレム睡眠時随伴症(NREM型) | レム睡眠時随伴症(REM型) |
|---|---|---|
| 発生する睡眠段階 | 深い眠り(ノンレム睡眠)の前半※2 | 睡眠後半(明け方)に多いレム睡眠中※2 |
| 意識の状態 | 朦朧としており、周囲の認識が困難 | 比較的明瞭、覚醒しやすい |
| 覚醒後の記憶 | ほとんど覚えていない | 夢の内容などを鮮明に覚えている |
| 行動の性質 | 歩行・着替えなど複雑な行動を伴うが、目的や文脈を欠く※2 | 夢の内容と連動した複雑で暴力的な行動 |
| 発症しやすい年齢 | 小児期に多い | レム睡眠行動障害は中高年以降に多い(悪夢障害・睡眠麻痺は若年層に多い)※17 |
| 代表的な症状 | 睡眠時遊行症(夢遊病)、睡眠時驚愕症(夜驚症)、錯乱性覚醒、睡眠関連摂食障害※15 | レム睡眠行動障害、悪夢障害、睡眠麻痺(金縛り) |
睡眠時随伴症で特に知っておくべきこと:危険度・鑑別・受診のポイント
睡眠時随伴症は多岐にわたりますが、すべてのケースで直ちに医療機関の受診が必要なわけではありません※9。ここでは、特にどのような場合に注意すべきか、受診の目安や他の病気との関連について詳しく解説します。
危険度別に見る受診の目安と緊急性
症状によっては、本人や周囲の安全を確保するために、早期の対応が求められます※18。
自傷・他害リスクがある場合の緊急性
レム睡眠行動障害のように、夢の内容に反応して暴れたり、大声を出したりする症状は特に注意が必要です※16※9。
ベッドパートナー(一緒に寝ている人)や本人が打撲や骨折などの外傷を負った例が報告されており、リスクは高いと考えられます※18。このような行動が見られる場合は、速やかに専門医に相談してください※18。
レム睡眠行動障害の治療の進め方や、その後の見通しについては、レム睡眠行動障害の治療と経過の見通しをまとめた記事が参考になります。
転落や怪我のリスクがある場合
夢遊病などで無意識に家の中を歩き回る場合、階段から転落したり、窓から外に出ようとしたりする危険性があります※9。また、部屋の中で物にぶつかって怪我をすることもあります。
床の障害物や鋭利なものを片づけ、窓や戸の施錠を行うなど、環境整備とあわせて対応することが大切です※9※18。頻度が高い、あるいは危険な行動が見られる場合は、安全確保のためにも受診を検討すべきです※18。
成人になってから続く夢遊病の背景や対処については、成人の夢遊病の原因・症状・治し方をまとめた記事で詳しくまとめています。
日常生活に支障がある場合
夜間の異常行動によって睡眠が妨げられ、日中に強い眠気や集中力の低下、気分の落ち込みなどが生じている場合も受診の目安です。睡眠障害国際分類でも、苦痛または日中の機能障害があることが診断上の要件とされています※2。
睡眠の質が著しく低下しているサインであり、生活の質全体に影響を及ぼす前に対応することが望ましいです。悪夢が頻繁で眠るのが怖い、といった精神的な苦痛が大きい場合も同様です※17。
小児期によく見られる一過性のものと、経過観察のポイント
小児の夜驚症や夢遊病は、多くが成長とともに自然に治まります※9※8。
危険な行動がなく、日中の様子にも変化がなければ、慌てずに経過観察することも選択肢の一つです。ただし、経過を見てよい発作頻度についての明確な基準は定まっていません。判断に迷う場合や不安がある場合は、専門家に相談してください。
ただし、頻度が非常に高い、症状が激しい、中学生以降も続く、あるいは悪化するといった場合は、専門家への相談をおすすめします。公的資料でも、多くは思春期早期に自然に治まるものの、まれに成人期まで持続することがあるとされています※9。
他の疾患との鑑別が重要な理由
睡眠時随伴症と似た症状を示す他の病気が存在するため、正確な診断を下すことが適切な治療への第一歩となります※19※7。自己判断は禁物です。
夜間てんかんとの違い
てんかん発作の中には、睡眠中にのみ起こる「夜間てんかん」があります。奇声を発する、手足をバタつかせるなどの症状が睡眠時随伴症と似ているため、区別が難しいことがあります※19。
てんかんの場合は、毎回同じような決まったパターンの動き(常同性)が見られることが多く、その持続は2〜4秒程度と短いのが特徴です※19。鑑別の標準的な検査は、ビデオ記録を同時に行う終夜睡眠ポリグラフ検査(V-PSG。一晩かけて脳波や呼吸などを測る検査)であり、脳波検査だけで判断されるものではありません※19。
なお、かつて「夜間前頭葉てんかん」と呼ばれていた病態は、2014年の国際コンセンサス会議で「睡眠関連過運動てんかん(SHE)」へ名称が変更されています※20。
夜間せん妄や薬剤性の場合
特に高齢者において、夜間に突然混乱して騒いだり、幻覚を見たりする「夜間せん妄」という状態があります※7。これは認知症や身体疾患、環境の変化などが引き金となる意識障害であり、睡眠時随伴症とはメカニズムが異なります※7。
また、服用している薬の副作用として、異常な夢や行動が引き起こされることもあります。この場合は睡眠障害国際分類上、「薬物または物質による睡眠時随伴症」として独立して分類されます※2※7。
PTSDによる悪夢との区別
心的外傷後ストレス障害(PTSD)を抱えている場合、トラウマ体験が再体験される形で悪夢を見ることがあります※21。これは一般的な悪夢障害とは異なり、鑑別が非常に重要です※17。
PTSDに伴う悪夢は、標準的なPTSDの薬物療法や心理療法に抵抗性を示すことが多く、トラウマ治療だけでは改善しない場合があります。そのため、イメージリハーサル療法(IRT)やプラゾシンなど、悪夢そのものを標的とした治療が検討されます※21。
診断のための検査と専門の受診先
睡眠時随伴症が疑われる場合、専門の医療機関では詳細な検査が行われます※9。
終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)で何がわかる?
これは、睡眠の問題を診断するための標準的な検査です。終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)は、睡眠時随伴症とてんかんの鑑別においても標準的な検査と位置づけられています※19。
多くは医療機関に一泊して行い、頭や顔、体に電極などを装着して眠ります。
睡眠中の脳波、眼球の動き、筋肉の活動、呼吸、心電図などを同時に記録することで、睡眠の質や深さ、睡眠段階の移行、異常行動がノンレム・レム睡眠のどちらで起きているかなどを客観的に評価できます※9。鑑別を目的とする場合は、ビデオ記録を同時に行うことが必須とされます※19。また、レム睡眠行動障害では、レム睡眠中に筋緊張の消失が失われている所見(RWA)を確認することが確定診断に必要です※16。
これにより、他の睡眠障害やてんかんとの鑑別も可能になります※19。
どの診療科を選ぶべき?精神科、睡眠外来、脳神経内科の使い分け
どの科を受診すればよいか迷うかもしれません。一つの目安として、症状に応じて以下のように考えられます。なお、これは一般的な目安であり、実際の診療体制は地域や施設によって異なります。
- 精神科・心療内科:ストレスや精神的な不調が背景にあると考えられる悪夢障害や、うつ病などに伴う睡眠の問題を相談するのに適しています。
- 睡眠外来・睡眠専門クリニック:睡眠に関する問題を総合的に診療する専門機関です。睡眠時随伴症全般に加え、睡眠時無呼吸症候群など、あらゆる睡眠障害の診断・治療に対応している施設が多くあります。
- 脳神経内科(旧・神経内科):レム睡眠行動障害のように、将来的にパーキンソン病などの神経変性疾患との関連が示唆される場合や、てんかんとの鑑別が必要な場合に中心的な役割を果たします。日本神経学会は2017年9月16日に、標榜診療科名を「神経内科」から「脳神経内科」へ変更することを決定しています※22。
まずはかかりつけ医に相談するか、お近くの睡眠専門の医療機関を探してみるのも一つの方法です。
年齢による発症の傾向と注意点
症状の現れ方は、年齢によっても特徴があります。
小児期に多い睡眠時随伴症とその特徴
前述の通り、夜驚症や夢遊病は小児期に最も多く見られます※8。これは、睡眠と覚醒をコントロールする脳のシステムがまだ発達途中であることが一因と考えられています。
加えて家族集積性も知られており、親に同じ症状の既往がある場合、子どもの発症しやすさは調整オッズ比(起こりやすさを比べた統計の指標)で3.02〜7.25と報告されています※8。多くは成長とともに頻度が減っていきます※9※8。
成人期や高齢期に注意すべき随伴症
成人期以降、特に中高年になってからレム睡眠行動障害(RBD)が発症した場合は注意が必要です※23。RBDは、将来的にパーキンソン病やレビー小体型認知症といった神経変性疾患を発症する前触れの症状である可能性が指摘されています※23。
24施設・1,280例を追跡した多施設研究では、レム睡眠行動障害から神経変性疾患へ移行する割合は年6.25%、12年間の累積で73.5%と報告されています※23。
そのため、RBDと診断された場合は、定期的な経過観察が重要となります※23。
治療をせずに経過した場合にどのような変化が起こりうるかは、レム睡眠行動障害を放置した場合の経過を解説した記事で詳しくまとめています。
よくある疑問を解消!睡眠時随伴症に関するQ&A
睡眠時随伴症は自然に治る?
小児期に発症した夢遊病や夜驚症の多くは、脳の成熟とともに思春期頃までに自然に消失します※9。
しかし、成人期に発症したものや、症状が激しい場合、レム睡眠行動障害などは、自然治癒が難しいケースもあり、専門的な治療が必要となることがあります※18。
ストレスは睡眠時随伴症に影響する?
はい、大きく影響します。精神的なストレス、過労、睡眠不足、不規則な生活リズムなどは、睡眠時随伴症の症状を誘発したり、悪化させたりする主要な要因です※6※4。
生活習慣を見直し、リラックスできる時間を持つことが症状の緩和につながる場合があります※18。
睡眠時随伴症に治療薬はあるのか?
症状や原因に応じて、薬物療法が選択されることがあります。レム睡眠行動障害にはクロナゼパムなどが用いられ、多くの例で有効とされますが、日中の眠気や混乱、転倒のリスクがあります。ラメルテオンや抑肝散が用いられることもあります※18。
症状が激しい夜驚症などには抗不安薬が用いられることがあります※4。
ただし、これらはあくまで症状を抑える対症療法(原因ではなく症状をやわらげる治療)が主であり、根本的な原因に対する治療ではありません。ノンレム睡眠に関連する型では、睡眠不足やストレス、併存する睡眠時無呼吸などの誘因を取り除くことが優先され、自然に軽快することもあります※4※6。
薬物療法は必ず医師の診断と処方の下で行う必要があります。特にクロナゼパムは、高齢者では混乱や転倒のリスクがあるため慎重な投与が求められます※18。
家族ができるサポートは?
最も重要なのは安全の確保です。夢遊病がある場合は、窓や玄関の鍵を閉める、床に危険なものを置かないといった環境整備が大切です※9。
レム睡眠行動障害の場合は、ベッドの周りにクッションを置いたり、可能であれば寝室を別にしたりすることも検討します。寝室を分けることは、同床者が外傷を負うのを防ぐ手段として位置づけられています※18。
また、症状を責めずに理解を示し、本人に受診を促すことも大切なサポートです。本人には発作の記憶がないことが多いため、同床者からの情報が診断の重要な手がかりになります※2※9。
睡眠時随伴症の「読み方」は?
「すいみんじずいはんしょう」と読みます※9。
まとめ
- 睡眠時随伴症は、その名の通り睡眠に伴って起こる多様な症状の総称であり、決して特別なものではありません。その全体像を理解する上で重要なのは、まずノンレム睡眠時に起こるもの(夢遊病、夜驚症など)と、レム睡眠時に起こるもの(レム睡眠行動障害、悪夢など)に大別されることを知ることです。
- 多くは経過観察で問題ありませんが、本人や周囲の人に怪我の危険がある場合や、日中の生活に支障が出ている場合は、専門家への相談を検討すべきサインです。また、てんかんやせん妄など、似た症状を示す他の疾患との鑑別も非常に重要になります。
- もしご自身やご家族の症状に不安や疑問を感じたら、一人で抱え込まず、精神科や脳神経内科、あるいは睡眠専門の医療機関に相談してみてください。適切な診断とサポートを受けることが、安心して夜を過ごすための第一歩となるはずです。
- Stallman HM, ら. Prevalence of Sleepwalking: A Systematic Review and Meta-Analysis. PLOS ONE. 2016;11(11):e0164769. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0164769
- 米国睡眠医学会(American Academy of Sleep Medicine). International Classification of Sleep Disorders, Third Edition, Text Revision(ICSD-3-TR)Parasomnias. https://aasm.org/wp-content/uploads/2022/05/ICSD-3-TR-Parasomnias-Draft.pdf
- 米国睡眠医学会(American Academy of Sleep Medicine). International Classification of Sleep Disorders. https://aasm.org/clinical-resources/international-classification-sleep-disorders/
- Irfan M, ら. NonREM Disorders of Arousal and Related Parasomnias. Neurotherapeutics. 2021;18(1):124-139. https://doi.org/10.1007/s13311-021-01011-y
- 厚生労働省 e-ヘルスネット. 眠りのメカニズム. https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/heart/k-01-002.html
- 加藤久美, ら. ノンレムパラソムニア. 臨床神経生理学. 2020;48(1):45-49. https://doi.org/10.11422/jscn.48.45
- 野村哲志. 高齢者の睡眠障害. 日本老年医学会雑誌. 2017;54(3):343-348. https://doi.org/10.3143/geriatrics.54.343
- Petit D, ら. Childhood Sleepwalking and Sleep Terrors: A Longitudinal Study of Prevalence and Familial Aggregation. JAMA Pediatrics. 2015;169(7):653-658. https://doi.org/10.1001/jamapediatrics.2015.127
- 国立精神・神経医療研究センター. 睡眠時随伴症. https://www.ncnp.go.jp/nimh/sleep/sleep-medicine/parasomnia/index.html
- 厚生労働省 e-ヘルスネット. レム睡眠. https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/dictionary/heart/yk-069.html
- 厚生労働省 e-ヘルスネット. ノンレム睡眠. https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/dictionary/heart/yk-048.html
- 葭澤秀一郎. 睡眠時ブラキシズム. 睡眠口腔医学. 2020;6(2):123-128. https://doi.org/10.24695/josm.6.2_123
- Whitney M, ら. Sleep Starts and Related Phenomena. Current Sleep Medicine Reports. 2018;4(1):19-27. https://doi.org/10.1007/s40675-018-0104-9
- 中尾紘一, ら. 睡眠関連摂食障害. 臨床神経生理学. 2025;53(1):21-28. https://doi.org/10.11422/jscn.53.21
- Kazaglis L, ら. Classification of Parasomnias. Current Sleep Medicine Reports. 2016;2(2):45-52. https://doi.org/10.1007/s40675-016-0039-y
- 小栗卓也, ら. レム睡眠行動障害. 臨床神経生理学. 2020;48(1):50-58. https://doi.org/10.11422/jscn.48.50
- Stefani A, ら. Nightmare Disorder and Isolated Sleep Paralysis. Neurotherapeutics. 2021;18(1):100-106. https://doi.org/10.1007/s13311-020-00966-8
- 角幸頼, ら. レム睡眠行動障害の治療. 神経治療学. 2021;38(4):508-511. https://doi.org/10.15082/jsnt.38.4_508
- Nobili L, ら. Nocturnal Frontal Lobe Epilepsy. Current Neurology and Neuroscience Reports. 2014;14:424. https://doi.org/10.1007/s11910-014-0424-1
- Vignatelli L, ら. Prevalence of Sleep-Related Hypermotor Epilepsy—Formerly Named Nocturnal Frontal Lobe Epilepsy—in the Adult Population of the Emilia-Romagna Region, Italy. Sleep. 2017;40(2):zsw041. https://doi.org/10.1093/sleep/zsw041
- Campbell RL, ら. Nightmares and Posttraumatic Stress Disorder. Current Sleep Medicine Reports. 2016;2(2):74-80. https://doi.org/10.1007/s40675-016-0037-0
- 日本神経学会. 標榜診療科名の変更について. https://www.neurology-jp.org/news/change_name.html
- Postuma RB, ら. Risk and predictors of dementia and parkinsonism in idiopathic REM sleep behaviour disorder: a multicentre study. Brain. 2019;142(3):744-759. https://doi.org/10.1093/brain/awz030