「年を取ると眠りが浅くなる」「早朝に目が覚めてしまう」これらは加齢に伴う一般的な睡眠の変化です。 高齢者の睡眠は、若年成人とは構造そのものが異なり、深睡眠の減少・中途覚醒の増加・概日リズムの前進などの特徴があります(参考:Ohayon ら 2004, 1)。

本記事では、加齢で変わる睡眠の生理学的変化、それに伴う健康課題、そして年齢に応じた睡眠との付き合い方を解説します。


加齢による睡眠構造の変化

睡眠ポリグラフ(PSG)を用いた研究で、年齢と共に以下のような変化が観察されています。

量の変化

  • 総睡眠時間は20代の約7.5時間から、80代では約6時間に減少(具体的な時間は目安で、研究により幅があります)
  • 入眠潜時(寝つくまでの時間)が延長
  • 中途覚醒時間が増加
  • 睡眠効率(ベッドにいる時間のうち実際に眠っている時間の割合)が低下(参考:Ohayon ら 2004, 1)

質の変化

  • N3(深睡眠)が大幅に減少:20代の約20%から、80代では5%以下に(具体値は近似で個人差があります)
  • レム睡眠も微減:20代の25%から、80代では18〜20%
  • N1・N2(軽睡眠)が増加:相対的に浅い睡眠が中心になる
  • 睡眠の分断化:1晩あたりの覚醒回数が増加(参考:Ohayon ら 2004, 1)
ポイント
高齢者で「眠りが浅い」と感じる主因は、N3深睡眠の大幅な減少です。これにより、長時間眠っても深い回復感が得にくくなります(なお、高齢者の睡眠の質低下には、加齢そのものに加えて併存疾患や服用薬の影響も大きいとされます)。

概日リズムの前進

加齢とともに、体内時計の位相が早い時間にシフトする傾向があります。

  • 夕方〜夜(19〜21時頃)に眠気が来る
  • 早朝(3〜5時頃)に目覚める
  • 「中途覚醒」というより、本人にとっては「自然な目覚め」

これは、視交叉上核(SCN)の神経細胞数減少、メラトニン分泌量の低下、深部体温リズムの位相前進などが関連します。

高齢者に多い睡眠問題

① 早朝覚醒

希望する起床時刻より2時間以上早く目覚め、再入眠できない。健康な加齢でも起こりますが、頻度が高い場合はうつ病・睡眠相前進症候群を疑います(参考:日本睡眠学会 4)。

② 中途覚醒

夜間に複数回目が覚める。原因として、夜間頻尿(前立腺肥大・過活動膀胱)、慢性疼痛、不安、概日リズムの乱れなどがあります。

③ 睡眠時無呼吸症候群(SAS)

加齢に伴い有病率が上昇。65歳以上では男性の約30〜50%、女性の20〜30%にSASが見られると報告されています(有病率は無呼吸低呼吸指数(AHI)の閾値・診断定義により大きく変動します)。日中の眠気・認知機能低下・心血管リスクと関連(参考:睡眠時無呼吸疫学レビュー 2)。

④ レストレスレッグス症候群(RLS)

夜間にむずむずする感覚で下肢を動かしたい衝動。中高年女性に多く、入眠困難の原因に。鉄欠乏や腎機能との関連あり。

⑤ レム睡眠行動障害(RBD)

レム中に夢の内容を実演してしまう。叫ぶ・蹴る・暴れる。50代以上の男性に多く、パーキンソン病・レビー小体型認知症の前駆症状として重要(参考:Postuma ら 2019, 3)。

⑥ 不眠症

65歳以上の30〜40%に何らかの不眠症状あり。慢性不眠症は10〜15%。気分障害・身体疾患・薬剤の影響を慎重に評価する必要あり(参考:日本睡眠学会 4)。

加齢と睡眠 — 病気か、自然な変化か

高齢者の「睡眠の浅さ」「早朝覚醒」は、必ずしも病気ではありません。生理的な加齢変化とも言えます(参考:Ohayon ら 2004, 1)。

病気を疑うべきサイン

以下があれば医療機関への相談を検討します。

  • 日中の強い眠気で生活に支障
  • 寝つくまでに2時間以上かかる日が続く
  • 不眠が3か月以上持続
  • 気分の落ち込み、興味の喪失を伴う
  • いびき・無呼吸を指摘される
  • 夜間に暴れる、声を出す
  • 寝起きの頭痛
  • 認知機能低下(参考:日本睡眠学会 4)

高齢者の睡眠改善法

薬に頼りすぎない

ベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬は、高齢者では以下のリスクがあります。

  • 転倒・骨折リスク:筋弛緩作用・ふらつき
  • 認知機能低下:日中の眠気・注意散漫
  • 依存形成:減薬時のリバウンド不眠
  • 譫妄リスク:特に入院・手術前後(参考:日本睡眠学会 4)

Beers基準などの高齢者処方リスト推奨では、長期間のベンゾジアゼピン系処方は避けるべき薬剤に分類されています(米国老年医学会Beers基準は2023年版が最新です)(参考:日本睡眠学会 4)。

高齢者の睡眠薬は慎重に
やむを得ず使用する場合は、メラトニン受容体作動薬(ラメルテオン)やオレキシン受容体拮抗薬(スボレキサント、レンボレキサント)など、依存性・筋弛緩作用の少ない選択肢を優先します。
必ず主治医と相談の上で(参考:日本睡眠学会 4)。

非薬物療法 — 5つのポイント

  1. 朝の光をしっかり浴びる

    起床後30分以内に屋外光を15〜30分(時間はあくまで目安)。体内時計をリセットし、夜の自然な眠気を促進。屋外散歩がベスト。曇りでも効果あり(参考:厚生労働省 5)。

  2. 日中の活動量を増やす

    軽い運動(ウォーキング・体操・水中歩行)を週5回以上。運動による深睡眠の増加効果は高齢者でも確認されている。社会参加(地域活動・趣味)も重要(参考:厚生労働省 5)。

  3. 昼寝は30分以内・午後3時前

    長時間の昼寝・夕方の昼寝は夜の睡眠を妨げる。逆に短時間の昼寝は、認知機能維持に有益(参考:厚生労働省 5)。

  4. 夜の水分・カフェイン・アルコールを控える

    夜間頻尿予防のため、夕食後の水分摂取は控えめに。カフェインは就寝前数時間(就寝が午後10〜11時頃なら午後2〜3時以降が目安)は避ける。アルコールは入眠を助けるが、後半の睡眠を壊すため非推奨(参考:厚生労働省 5)。

  5. 寝室環境を整える

    温度18〜22度、湿度40〜60%(数値は一般的な目安)。遮光カーテン。マットレス・枕の見直し。夜間トイレ動線の安全確保(足元灯など)(参考:厚生労働省 5)。

認知症と睡眠の関係

近年、睡眠と認知症の双方向の関係が注目されています。

睡眠不足 → 認知症リスク増加

睡眠中に脳から除去されるβ-アミロイド(アルツハイマー病原因物質)は、深睡眠中に最も効率的に排出されます。慢性的な深睡眠不足は、β-アミロイドの蓄積を加速させると考えられています(参考:Xie ら 2013, 6)。

認知症 → 睡眠の崩壊

アルツハイマー病・レビー小体型認知症などでは、概日リズムが崩壊し、昼夜逆転・夜間徘徊が起こりやすい。サンダウン症候群(夕方〜夜にかけて不穏になる現象)も知られています。

高齢者の睡眠ケアの重要性

良好な睡眠を保つことは、認知症予防の重要な戦略になり得ます。早期からの睡眠衛生改善、SASのスクリーニングと治療、RBDの早期発見は、将来の認知機能維持に貢献します。

高齢者ご家族へのお願い
高齢のご家族の「いびきがひどい」「夜中に叫ぶ」「日中とても眠そう」といった様子に気づいたら、医療機関への相談を促してください。これらは治療可能な疾患のサインかもしれません。

まとめ

  • 加齢で深睡眠(N3)が減少し、中途覚醒が増加
  • 概日リズムが前進し、早寝早起き傾向に
  • 睡眠時無呼吸症候群・レム睡眠行動障害などの疾患リスクが上昇
  • 安易な薬物療法はリスク大、非薬物療法を優先
  • 朝の光・日中の活動・適切な昼寝・寝室環境整備が重要
  • 睡眠と認知症は双方向に影響、早めのケアが鍵

次回(第07回)は、年齢を問わず実践できる睡眠衛生の基本について、エビデンスに基づく12のルールを紹介します。


関連リソース

参考資料・文献一覧

  1. Ohayon MM, Carskadon MA, Guilleminault C, Vitiello MV. Meta-Analysis of Quantitative Sleep Parameters From Childhood to Old Age in Healthy Individuals: Developing Normative Sleep Values Across the Human Lifespan. Sleep. 2004; 27(7): 1255-1273. https://doi.org/10.1093/sleep/27.7.1255
  2. Senaratna CV, et al. The epidemiology of obstructive sleep apnea. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4561280/
  3. Postuma RB, Iranzo A, Hu M, et al. Risk and predictors of dementia and parkinsonism in idiopathic REM sleep behaviour disorder. Brain. 2019; 142(3): 744-759. https://doi.org/10.1093/brain/awz030
  4. 日本睡眠学会『睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン』2013. https://jssr.jp/files/guideline/suiminyaku-guideline.pdf
  5. 厚生労働省『健康づくりのための睡眠ガイド2023』2024年2月. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/suimin/index.html
  6. Xie L, Kang H, Xu Q, et al. Sleep Drives Metabolite Clearance from the Adult Brain. Science. 2013; 342(6156): 373-377. https://doi.org/10.1126/science.1241224

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